病気と運転 ~ 道路交通法を中心として

Ⅰ. 過去の経緯

表)近年の法律改正について
表)近年の法律改正について

道路交通取締法の廃止に伴い、1960年(昭和35年)に道路交通法が施行されました。しかし、施行当初における運転免許の対象者は健常者を想定しており、①病気,②認知症,③高齢化への対策は十分とは言えず、課題の残るものでした。

以前の道路交通法では、精神病者,精神薄弱者,てんかん病者,目が見えない者,耳が聞こえないものまたは口がきけない者,政令で定める身体に障害のある者,アルコール・麻薬・あへん・覚醒剤の中毒者については、絶対的欠格事由として運転免許を与えないこととされていました。

2002年(平成14年)6月に道路交通法が改正され、上記病気は絶対的欠格事由から相対的欠格事由へと変更されました。その結果、運転免許について、病名により一律に禁止するのではなく、病気により自動車運転に支障を生じるかどうかを見極めて免許習得の可否を個別に判断することになりました。

※欠格事由とは

欠格とは「資格習得に必要な条件を満たせず資格の習得ができないこと」です。また、欠格となる理由のことを欠格事由と言います。

※絶対的欠格事由と相対的欠格事由のちがい

絶対的欠格事由とは「欠格事由に該当するといかなる場合であっても資格の習得ができない理由」のことです。一方で、相対的欠格事由は「欠格事由に該当してもケースバイケースで判断されるため、資格の習得ができることもあればできないこともある理由」となります。

1. 道路交通法の改正① ~ 一定の病気等について

2011年(平成23年)4月に栃木県鹿沼市において、運転手がてんかん発作により運転中に意識消失を来し、クレーン車が歩道を歩いていた通学中の児童の列に突入して6名が死亡するという交通事故が発生しました。事故を起こした運転手は過去2年の間にてんかん発作があり、運転免許の取得ができない状態であるにも関わらず、てんかん発作があることを申告せずに運転免許を更新していたことが明らかとなりました。

その後、「一定の病気等に係る運転免許制度の在り方に関する有識者検討会」を設置し、「一定の症状を呈する病気等に係る運転免許制度の在り方に関する提言」を取りまとめた上で、2014年(平成26年)6月に道路交通法が改正され、一定の病気等に係る運転者対策の推進を図るための規定が整備されました。

2. 道路交通法の改正② ~ 認知症について

認知症は一定の病気の1つに規定されています。警察庁の交通事故調査において、①75歳以上の運転者(以下、高齢運転者)による死亡事故が増加したこと,②死亡事故を起こした高齢運転者の約50%に認知機能低下が疑われたことが指摘されました。

その後、「高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議」を設置し、「高齢運転者交通事故防止対策に関する提言」を取りまとめた上で、2017年(平成29年)3月に道路交通法が改正され、高齢運転者対策が強化されました。

Ⅱ. 一定の病気等

1. 一定の病気等とは?

表)一定の病気等

一定の症状を呈する病気等に係る運転免許制度の在り方に関する提言の中に、「一定の症状を呈する病気等(一定の病気等)」という用語の定義が記載されています。

一定の病気等とは「運転免許の取消しまたは停止の事由となる自動車等の安全な運転に支障をおよぼすおそれのある病気」であり、①道路交通法第90条および第103条,②道路交通法施行令第33条の二の三,③警察庁の一定の病気に係る免許の可否等の運用基準によって規定されています。

厳密に法律を解釈すると、一定の病気とは「統合失調症,てんかん、再発性の失神、無自覚性の低血糖症、そううつ病、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害、その他の精神障害、脳卒中、認知症」であり、一定の病気等とは「一定の病気にアルコール、麻薬、大麻、あへんまたは覚醒剤の中毒を加えたもの」と定められています。

※一定の症状を呈する病気等に係る運転免許制度の在り方に関する提言 ~ 一定の症状を呈する病気等とは

現行の道路交通法においては、運転免許を受けようとする者ごとに自動車等の安全な運転に支障があるかどうかを見極めることとされており、運転免許の拒否又は取消し等の事由となる自動車等の運転に支障を及ぼすおそれのある病気等(次に列挙する病気や認知症、特定の薬物中毒を、以下「一定の症状を呈する病気等」と総称する)として定めている。

・統合失調症(自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除く)
・てんかん(発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除く)
・再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるものをいう)
・無自覚性の低血糖症(人為的に血糖を調節することができるものを除く)
・そううつ病(そう病及びうつ病を含み、自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除く)
・重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
・その他自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する病気
・認知症
・アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒

※道路交通法について

(免許の拒否等)

第90条 公安委員会は、運転免許試験に合格した者に対し、免許を与えなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する者については、政令で定める基準に従い、免許を与えず、又は六月を超えない範囲内において免許を保留することができる。

一 次に掲げる病気にかかっている者

イ 幻覚の症状を伴う精神病であって道路交通法施行令(以下、政令)で定めるもの
ロ 発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であって政令で定めるもの
ハ 自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの

一の二 介護保険法第5条の二に規定する認知症である者

二 アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者

(免許の取消し、停止等)

第103条 免許を受けた者が次の各号のいずれかに該当することとなったときは、その者が当該各号のいずれかに該当することとなった時におけるその者の住所地を管轄する公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる。

一 次に掲げる病気にかかっている者であることが判明したとき。

イ 幻覚の症状を伴う精神病であって政令で定めるもの
ロ 発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であって政令で定めるもの
ハ 自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの

一の二 認知症であることが判明したとき。

二 目が見えないことその他自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある身体の障害として政令で定めるものが生じている者であることが判明したとき。

三 アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者であることが判明したとき。

※道路交通法施行令について

(免許の拒否又は保留の基準)

第33条の二の三 政令で定める精神病

1.統合失調症
自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除く。
2.てんかん
発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除く。
3.再発性の失神
4.無自覚性の低血糖症
人為的に血糖を調節することができるものを除く。
5.そううつ病
そう病及びうつ病を含み、自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除く。
6.重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
7.その他の自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する病気

※一定の病気に係る免許の可否等の運用基準についてはこちらをご参照ください。

2. 法律的解釈

表)法律的解釈①一定の病気等

A. 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(別称.自動車運転死傷行為処罰法)

以前は刑法第208条の二に、危険運転致死傷罪として「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する」と規定されていました。しかし、当時の危険運転致死傷罪の条件は極めて厳格であったため、法廷の場において立証することが難しく危険運転致死傷罪が適用されないという課題がありました。そこで、刑法における危険運転致死傷罪を改正したものが、2014年(平成26年)5月に施行された自動車運転死傷行為処罰法となります。
自動車運転死傷行為処罰法では「自動車の安全な運転に支障を生じるおそれがある病気であって、その状態であることを自分でも分かっていながら自動車を運転し、病気の影響で正常な運転が困難な状態になり、人を死亡または負傷させた場合」に危険運転致死傷罪が適用され、人を死亡させたときは15年以下の懲役、負傷させたときは12年以下の懲役に処されることになります。

※自動車運転死傷行為処罰法について

(危険運転致死傷)
第三条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。
2 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。

B. 道路交通法の改正(2014年)

2014年(平成26年)6月に道路交通法が改正され、一定の病気等に係る運転者対策として,①公安委員会の質問制度と虚偽記載に関する罰則の整備,②医師による公安委員会への任意の届け出制度が整備されました。

①公安委員会の質問制度と虚偽記載に関する罰則の整備

公安委員会は、運転免許受験者や更新者に一定の病気等についての質問をすることが可能になりました。一定の病気等があるにも関わらず虚偽の回答をし、免許を取得または更新した者は、1年以下の懲役または30万円以下の罰金刑を受けることになります。

②医師による公安委員会への任意の届出

一定の病気等のある患者を診察した医師は、患者の診断結果を公安委員会に任意で届け出ることができます。

3. 現在の課題

A. 医療機関で運転再開を判断する際に、ガイドラインに基づく共通の判断基準が存在しないこと。

2014年(平成26年)の道路交通法の改正により、自動車等の安全な運転に支障をおよぼすおそれのある病気(一定の病気等)が明確化されました。また、警察庁による一定の病気に係る免許の可否等の運用基準では、具体的疾患・症状について運転免許の可否の基準が示されており、医師が「自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれのある症状を呈していない」と診断した場合は運転の継続が可能とされています。

一方で、学会やガイドラインにより運転再開が可能となる判断基準は公表されておらず、医療機関において運転再開を判断する共通基準が存在しないため、現場の医療従事者に運転再開の判断がゆだねられていることが課題となっています。

※一定の病気に係る免許の可否等の運用基準についてはこちらをご参照ください。

Ⅲ. 認知症

1. 認知症とは?

A. 認知症の概要

表)認知症と認知機能障害

認知症とは「後天的な脳の障害により、いったん正常に発達した認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障を生じた状態」と定義されます。

※後天性とは、生まれた時は正常でしたが、病気や事故などを来した結果、生まれた後に持つことになった性質のことです。

認知機能が低下した状態を認知機能障害と言いますが、そもそも認知機能とはいったい何でしょうか? 認知機能とは「感覚器官を通じて自分の外にある世界(外界)について得られた情報から、情報分析と状況判断を通じて外界を認識し、外界の変化に対応して物事を実行にうつす力」のことであり、認知機能障害とは「外界を正しく認識することが困難となった結果、外界の変化に対して適切に対応することができない状態」と定義することができます。

B. 道路交通法における認知症とは?

道路交通法第90条において、認知症とは「介護保険法第5条の二に規定する認知症である者」と定められています。また、介護保険法第5条の二において、認知症とは「脳血管疾患、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態」と規定されています。

よって、道路交通法における認知症とは「脳血管疾患、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態」と定義することができます。

C. 認知症の診断基準

現在の我が国には、認知症に関する診断基準が複数存在します。認知症の診断基準のひとつであるDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,DSM)によると、認知症は大神経認知障害に該当するため、以下にその診断基準を示します。

※DSM-5における大神経認知障害(認知症)の診断基準について

(1)1つ以上の認知領域(複雑性注意、遂行機能、学習および記憶、言語、知覚-運動、社会的認知)において、以前の水準から有意な機能低下を認める。
(2)毎日の活動において、認知欠損が自立を阻害する。
(3)その認知欠損は、せん妄の状況でのみ起こるものではない
(4)その認知欠損は、他の精神疾患によってうまく説明されない。

一般的に認知症 = 物忘れのイメージが強いと思われますが、認知症の中には物忘れのない認知症も存在します。また、以前の認知症の診断基準では記憶障害が必須条件でしたが、DSM-5による診断基準では中心となる症状が記憶障害から認知機能の低下(認知機能障害)へと変更されています。

※DSM-5に基づく認知症の診断についてはこちらをご参照ください。

2. 法律的解釈

表)法律的解釈②認知症
表)法律的解釈②認知症

A. 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(別称.自動車運転死傷行為処罰法)

自動車運転死傷行為処罰法では「自動車の安全な運転に支障を生じるおそれがある病気であって、その状態であることを自分でも分かっていながら自動車を運転し、病気の影響で正常な運転が困難な状態になり、人を死亡または負傷させた場合」に危険運転致死傷罪が適用され、人を死亡させたときは15年以下の懲役、負傷させたときは12年以下の懲役に処されることになります。

※詳細については「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(別称.自動車運転死傷行為処罰法)」をご参照ください。

B. 道路交通法の改正(2014年)

2014年(平成26年)6月に道路交通法が改正され、認知症が自動車等の安全な運転に支障をおよぼすおそれのある病気(一定の病気等)に該当することが明示されました。

C. 道路交通法の改正(2017年)

2017年(平成29年)3月に道路交通法が改正され、高齢運転者の対策として、①免許更新時の認知機能検査の見直し、②高齢者講習の合理化・高度化、③一定の違反行為をした際に認知機能検査を実施することになりました。

①免許更新時の認知機能検査の見直し

以前より75歳以上の高齢運転者を対象として、免許更新時に認知機能検査が施行されていました。以前の道路交通法では、認知機能検査において「認知症のおそれあり」と判定され、かつ一定の期間内に一定の違反行為をした場合に、医師による診断書の作成が必要とされていました。

2017年に道路交通法が改正され、知機能検査において「認知症のおそれあり」と判定された場合、違反行為の有無に関わらず、対象者全員に対して医師による診断書の作成が必要となりました。

②高齢者講習の合理化・高度化

以前の道路交通法では、免許更新時にかかる時間が、70歳 ~ 74歳の高齢運転者は高齢者講習のみ3時間,75歳以上の高齢運転者は認知機能検査30分 + 高齢者講習2時間30分の合計3時間とされていました。

2017年に道路交通法が改正され、免許更新時の高齢者講習の時間が、認知機能の低下のおそれがない場合は2時間、認知機能低下のおそれがある場合は3時間へと変更されました。

③一定の違反行為をした際に認知機能検査を実施すること

2017年に道路交通法が改正され、75歳以上の高齢運転者が「認知機能が低下した場合に行われやすい一定の違反行為(18基準行為)」をした場合、臨時の認知機能検査を受けることになりました。

※認知機能が低下した場合に行われやすい一定の違反行為(18基準行為)について

1.信号無視(例:赤信号を無視した場合)
2.通行禁止違反(例:通行が禁止されている道路を通行した場合)
3.通行区分違反(例:歩道を通行した場合、逆走をした場合)
4.横断等禁止違反(例:転回が禁止されている道路で転回をした場合)
5.進路変更禁止違反(例:黄の線で区画されている車道において、黄の線を越えて進路を変更した場合)
6.しゃ断踏切立入り等(例:踏切の遮断機が閉じている間に踏切内に進入した場合)
7.交差点右左折方法違反(例:徐行せずに左折した場合)
8.指定通行区分違反(例:直進レーンを通行しているにもかかわらず、交差点で右折した場合)
9.環状交差点左折等方法違反(例:徐行をせずに環状交差点で左折した場合)
10.優先道路通行車妨害等(例:交差道路が優先道路であるのにもかかわらず、優先道路を通行中の車両の進行を妨害した場合)
11.交差点優先車妨害(例:対向して交差点を直進する車両があるのにもかかわらず、それを妨害して交差点を右折した場合)
12.環状交差点通行車妨害等(例:環状交差点内を通行する他の車両の進行を妨害した場合)
13横断歩道等における横断歩行者等妨害等(例:歩行者が横断歩道を通行しているにもかかわらず、一時停止することなく横断歩道を通行した場合)
14.横断歩道のない交差点における横断歩行者等妨害等(例:横断歩道のない交差点を歩行者が通行しているにもかかわらず、交差点に進入して、歩行者を妨害した場合)
15.徐行場所違反 (例:徐行すべき場所で徐行しなかった場合)
16.指定場所一時不停止等 (例:一時停止をせずに交差点に進入した場合)
17.合図不履行 (例:右折をするときに合図を出さなかった場合)
18.安全運転義務違反 (例:ハンドル操作を誤った場合、必要な注意をすることなく漫然と運転した場合)

3. 現在の課題

A. 医療機関で高齢者の運転可否を判断する際に、ガイドラインに基づく共通の判断基準が存在しないこと。

2005年(平成17年)に超高齢社会をむかえ、4人に1人が高齢者となった我が国では、急激な高齢化の進行が問題となっています。厚生労働省によると、65歳以上の高齢者における認知症の合併率は15%とされており(平成27年推計)、高齢者における運転技能の評価には、①老化に伴う身体機能の低下,②認知機能の低下,を考慮する必要があります。

一方で、学会やガイドラインにおいて、健常高齢者の運転技能を評価する判断基準は公表されておらず、医療機関において高齢者の運転可否を判断する共通基準が存在しないことが課題となっています。

B. 医療機関で施行する認知機能検査の結果から運転可否を直接判断することが難しいこと

認知症とは「後天的な脳の障害により、いったん正常に発達した認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障を生じた状態」と定義されます。認知症では記憶障害以外に学習障害、言語障害、遂行機能障害、注意障害など様々な症状が出現します。

認知機能検査は認知症の程度を判断する目安になりますが、すべての認知機能障害を正確に評価する万能の評価指標ではありません。また、認知機能検査は運転技能の評価を目的として設計されていないため、運転技能の評価に最適な指標とは言えず、認知機能検査の結果を用いて運転可否を直接判断することは難しいとされています。