第29回「地誌的障害」 | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第29回「地誌的障害」

平成30年1月11日桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。講師は、当院リハビリテーション科の武田克彦先生。
テーマは「地誌的障害」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告致します。

~地誌的障害とは~

Meyerによって提唱された。熟知している場所で道に迷う、新しい道順を覚えられない、熟知した場所の見取り図が描けない、熟知した風景や建物を見ても認知できないなどの症状を呈する。ただし、意識障害、認知症、健忘症候群、半側空間無視などの他の神経症状や神経心理症状によって説明可能な場合は除外する。熟知している場所とは、自宅付近、職場付近など、発症前からよく知っている場所(旧知の場所)だけではなく、新たによく知るようになった場所(新規の場所)も含まれる。地誌的障害では通常、旧知の場所でも新規の場所でも道に迷う。
地理的障害、地誌的失見当、地誌的見当識障害、広義の地誌的失認などもほぼ同義である。また、地誌的な障害に合併しやすい症状として、同名半盲、半側空間無視、相貌失認がある。

~街並失認と道順障害~

高橋らは地誌的障害を症候と病巣から街並失認(agnosia for streets or landmark agnosia)と道順障害(defective root finding or heading disorientation)の二つに分類した。前者は、街並(建物、風景)の同定障害に基づくものであり、視覚性失認の一型と考えられる。後者は広い地域内における自己や、離れた他の地点の空間的定位障害であり、視空間失認に含まれる。
街並失認と道順障害の違いを以下に示す。

~街並失認~

熟知しているはずの街並(建物・風景)を見ても、何の建物か、どこの風景かわからない。したがって、それらが道をたどるうえでの指標にならないため道に迷う。街並失認の病巣は、海馬傍回後部、舌状回前半部とこれらに隣接する紡錘状回がある。新規の場所のみでの病巣は、海馬傍回後部とそれに隣接する紡錘状回に限局している。右側あるいは両側病変例がほとんどであり、左病変例は稀である。病因は右後大脳動脈領域の梗塞が多い。

~道順障害~

一度に見通せない広い範囲(地域)内において、自己や他の地点の空間的位置を定位することが困難となる。したがって、目の前の建物を基準とした時の自分の位置や自分の向いている方角、離れた目的地への方角や距離がわからず道に迷う。脳梁膨大後域から頭頂葉内側部にかけての病変で生じる。少数ではあるが右舌状回・紡錘状回、右側頭葉後部、右回馬傍回、右後外側側頭葉皮質下で道順障害を呈した症例の報告もある。病変側は右側が多いが、街並失認に比べると左側病変例の割合が高い。左側の同部位は、エピソード記憶の障害を中心とする、いわゆる見坊症候群の病巣として知られている。これらの中に、記憶障害の程度に比し「道に迷う」症状が目立つ例があり、地誌的障害の合併と考えられる。一側病変例では症状の持続は短く、数か月以内に改善する例が多い。両側病変では持続性である。病因の多くは同部の脳出血(皮質下出血)である。

~地誌的障害の検査法~

1)風景写真を提示し、何の建物か、どこの風景かを答えさせる。同様に、新規の場所についても、入院(あるいは通院)している病院内やその周辺の写真を見せて検査する。
2)患者にとって未知の建物や風景の写真を見せてその特徴を口述させる。2枚の写真を同時提示してその異同を判定させる(異同弁別)。また、1枚の写真を提示し、同時に提示した数枚の中から同じものを選ばせ(見本合わせ)などで評価する。
3)旧知の場所となると、自宅や自宅付近の建物の外観を想起可能か否かを、口述や描画によって検査する。新規の場所は、通院中の病院の外観や内部などについて同様に調べる。
4)旧知の場所では、患者の自宅周辺などの熟知しているはずの地域(一度に見通せない範囲内)の地図を見せ、その地図上個々の建物の位置を定位させる。はじめから地図全体を描かせてもよい。異なる2点を指定して、この間の道順を口述あるいは描写させる。
5)自宅内部(旧知)と病院内部(新規)の見取り図を描かせる。

地理的障害の検査所見 による分類

~地誌的障害のリハビリテーション~

街並失認のリハビリテーションでは、言語的手段の活用が中心となる。比較的狭い範囲内では、曲がり角までの距離とそこからの方向を、言語的に順番に記憶するだけで有効なことがある。さらに広い地域内では、地図を持って移動する。地図には交差点などのポイントとなる場所に、標識や目立つ看板などの指標を記入する。「緑の塀」や「赤い屋根」など特徴的な目印があればそれも記入する。写真も添えてあればいっそうわかりやすくなる。一方、道順障害では、郵便局、交番、レストランなど、主要な指標とその位置を記入した地図を持って移動しても、移動の途中で自分が地図上のどこにいるのかわからなくなってしまうため有効ではない。また、レストランと書かれた場所に着いても、どの方角を向いて立っているのかわからない。ここでも言語的手段の活用が有効であり、目印となる指標とその位置、そこから進む方向を言語的に記述したメモを持って移動する。

Luncheon seminar の様子

 

以上、武田克彦先生に「地誌的障害」をテーマにご講演頂いた内容をご報告します。
次回は、平成30年2月15日にご講演して頂く予定となっております。

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