第7回「前頭葉について 〜3〜」 | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第7回「前頭葉について 〜3〜」

平成27年3月10日、桔梗ヶ原病院リハビリテーション研修会Luncheon Seminarを開催しました。
講師は当院リハビリテーション科の武田克彦先生(第40回 日本高次脳機能障害学会学術総会会長)。
今回も前回と同様、テーマは「前頭葉」と題し、前頭葉についてのまとめを各項目に分けて講演を頂きましたので、ご講演の内容を報告します。

~前頭葉~(発達と老化)

前頭葉は、5歳~20歳までの間に発達し、側頭葉・後頭葉など他の部位と比べて遅く発達し、老化による機能低下は最も早いと言われています。
また、知能の高い人・低い人の前頭葉をMRI画像で比較した結果、知能が高い人の方が発達に優位な差があったという報告がされています。
前頭葉の発達は概ね13歳頃がピークとなり、それ以降の差は少ないとされています。

前頭葉の発達に関連が深いものとして、スイスの発達心理学者ピアジェ(Jean Piaget)が「心の理論」を提唱しています。
「心の理論」とは、他人の立場となって考える能力のことであり、「この人は何を思ってこんなことをしたのだろう」「ある事をしたらこの人は私のことをどう思うのだろう」など心の働きを言います。
この心の働きは、 幼児期4歳と児童期9歳の発達の節目の年齢で起こり、年長になるにつれ、より高度な行動の予測ができるようになってくると言われています。

~前頭葉~(運動障害)

前頭葉は運動の遂行にも大きく関わりがあります。前頭葉を損傷することで、運動の開始と遂行がスムーズに行われなくなる他、抑制障害による把握反射、環境依存性の亢進による使用行動障害が現れることもあります。
把握反射とは、手を差し出すと握ってしまい離そうとしても離せないことを言い、環境依存性の亢進とは、指示を受けていないにも関わらず置いてあるものを使用してしまう、他者の行動を模倣してしまうなど、環境の中にまるで命令が含まれているかのように行動をしてしまうことを言います。

~前頭葉~(言語障害)

前頭葉は言語とも密接な関わりがあります。
前頭葉損傷することで現れる言語障害としては、運動性失語、超皮質性運動性失語があります。
運動性失語とは、「ブローカ失語」とも呼ばれ、発話量が少なく非流暢、努力性でたどたどしい話し方をし、言葉の聴覚的理解面は比較的良好に保たれているものを言います。
超皮質性運動性失語とは、言語の自発性低下と良好な復唱が特徴であり、自発話は非流暢性とされるが、運動性失語が「話せない」のに対し、超皮質性運動失語は「話そうとしない」すなわち発話量が減少し復唱が保持されるものを言います。

~前頭葉~(記憶障害)

前頭葉損傷の記憶障害については、記憶そのものが障害されているのではなく、前頭前にはワーキングメモリーの中枢があり、ワーキングメモリーの利用が難しくなります。記憶した事柄を遂行する過程で、抑制がきかず、うまく計画を立てられないことが結果的に記憶力の低下という状態として現れるのです。
前頭葉損傷の記憶障害の方に対しての介入方法としては、Wordlistが覚えられなくても、カテゴリーごとに分け理論的に覚えるようにすることで成績が改善すると言われています。

~前頭葉~(気分障害)

前頭葉損傷による障害として、気分障害(アパシー)が挙げられます。
アパシーとは、普通なら感情が動かされる刺激対象に対して関心がわかない状態のことを言い、情動の平板化、発動性低下、意思・意図の欠如などの症状を認めます。
反対に、不穏・多動・衝動性が強くなる、子供っぽくなるなどアパシーとは逆の症状が出現することもあります。アパシーは遂行機能障害の影響が強く、計画性の乏しさなどから意欲低下に繋がっていると考えられています。

前頭葉損傷後のアパシーにより、日常生活の遂行が困難になったEVRという症例の報告があります。
EVR は両側前頭葉の髄膜腫摘出後、知能や神経心理学検査では異常は全く認めませんでした。また、社会的情報・倫理的事柄理解、道徳や推論においても異常は認めませんでした。
しかし、日常生活において、服を選択する、料理を選択するなど、当たり前の意思決定に困難を示したと報告されています。
これは、知能に問題がないにも関わらず、無関心・無感性であるがために、全ての事柄に対し結果的に傍観者となってしまうため、社会的行動障害が生じると考えられています。

~前頭葉~(遂行機能障害)

前頭前野背外側部が遂行機能に関する中心的な役割を担っていると考えられています。
遂行機能障害とは、計画の立案、目標に向かって計画の実行、効率的・効果的に行動を行うことができなくなる、自分自身の行動を評価・分析が困難になる状態を言います。
ウィスコンシンカード分類課題(WCST)を実施すると、セットの転換障害が生じます。これは、前では正しかった分類でも、分類が変化した際に、自己を抑制し新たな分類や手順を探すということが困難であるためです。

 

以上、武田克彦先生に「前頭葉」をテーマにご講演をいただいた内容をご報告します。 次回は平成28年4月14日に、ご講演をしていただく予定となっています。

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