第35回 記憶 | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第35回 記憶

第35回 記憶

平成30年7月12日桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。講師は、当院リハビリテーション科の武田克彦先生(第40回 日本高次脳機能障害学会学術総会会長)。

「記憶」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告いたします。

 

~ジェームズによる記憶の分類~

ジェームズによると、一次記憶とは今現在意識している意識の内容を指し、二次記憶とは意識から消えてしまっているが、必要があれば思い出せる記憶を指す。

 

~アトキンソンとシフリンの記憶の系列モデル~

感覚記憶は多くの情報の記憶、短期記憶は注意をむけられたものを覚えている記憶、長期記憶はリハーサルを反復して覚えている記憶とされている。(感覚記憶 → 短期記憶 → 長期記憶)

 

~感覚記憶~

感覚入力はたえず入ってくる。しかし、注意が向かなかった刺激は感覚貯蔵庫の中にきわめて短い間、貯蔵されるが1秒以内に消失する。注意の向いている刺激は、短期記憶として記憶される。短期記憶として保持するには、リハーサルをすることが必要である。

 

~短期記憶と長期記憶~

短期記憶として入力された情報は分析され、リハーサルを繰り返し長期記憶となる。これが記憶の固定であると考えられている。効率よく長期記憶に移行するには、深い処理(意味の処理)を行うことで移行しやすい。

 

~チャンク~

多くの情報量をひとまとめにすることで覚えやすいとされている。例えば、「110753226119575」を一度に覚えることは難しいため、「110 753 226 119 575」とすることで覚えられる。ひとまとまりの情報をチャンクといい、チャンクにすることで覚えやすい。同時に把握できるものの数は7±2であるといい、一度に7チャンク把握できる。

また、熟達者になるとチェスの盤上のこまの配置を再生することに優れている。理由として、いくつかの駒をひとまとまりにし、それらの群同士の関係として盤上の位置を知覚する。対し、初心者はそれぞれの駒を個別に覚えている。これを知覚的チャンク化という。

 

~展望記憶~

記憶の対象が意図(計画)された行為であり、その行為を意図してから実行に移すまでの間にある程度の遅延期間がある。その行為を実行しようとする意図が一度意識からなくなり、再度それをタイミングよく自発的に想起する必要がある。例えば、『明日何時にどこに電話をする』という出来事に対して、①電話することを覚えている②どこに電話をするのかを覚えている、といったことを2段階で実行しタイミングよく想起する記憶のことを指している。

「具体的に何を行うのか」「何かを行うべき行為がある」という2つの側面がある。「具体的に何を行うか」は海馬・間脳が関与しており、「何か行うべき行為がある」は前頭葉(大脳皮質)が関与している。

 

~長期記憶の分類~

長期記憶は、事実やエピソードを覚える宣言的記憶とやり方やルールを覚える手続き的記憶があるといわれている。この手続き記憶には、技能と単純な条件反射とプライミングがあるといわれている。

特定の日時や場所を関連した個人的な体験をエピソード記憶、特定の日時や場所とは無関係な情報の記憶(単語、記号の意味)を意味記憶と呼ぶ。

 

~Squireの提唱した記憶分類~

 

~症例HM~

HMは10歳頃よりてんかんを発症し、薬でのコントロールは困難であった。1953年(27歳)にて両側側頭葉内側を切除。術後のてんかん発作は減少した。

短期記憶に関しては、数字列を聞いてすぐに復唱する数唱は正常範囲。3桁数字や1組の単語も頭の中で繰り返しているのならば何分でも覚えられている。長期記憶に関しては、3つの言葉を覚えさせ無関係な数唱を行わせると5分後は覚えていない。雑誌の同じ貢を15分毎に何回読んでも飽きない。これらのことから、エピソード記憶は重篤に侵されており、意味記憶は保たれている。

HMの脳をMRIにて検討したところ、海馬の尾側1/2は萎縮しており、嗅内野はすべて切除され、周嗅野の一部と海馬傍回は残っていた。

 

~側頭葉内側の構造と記憶~

HMの検討から、両側側頭葉内側の損傷が記憶障害を生じることが明らかになった。この側頭葉内側には海馬などいくつかの解剖学的構造があり、それらの分かれた領域がどのように記憶に関与しているかは疑問が残っており、今後、解明が必要である。

 

~Jamesの記載~

友人の部屋に入ったとき、壁にある絵がかかっているのをみて、最初は不思議な気持ちになったそうである。「確かにその絵を前に見たことがある。しかし、それがいつ・どのように見たかは思い出せない」というように前にみたことがあるといったような不思議な感覚=親近性(知っているという強い気持ち)がその絵にしがみついているように思われる。

記憶には2通りあり、親近性(知っているという強い気持ち)と新皮質からの「これはなんだ」というものの両方があり、側頭葉内側でも役割が分かれている。

 

~DickersonとEichenbaum~

新皮質からの「何であるか」という情報は、嗅周囲皮質と嗅内皮質(外側)を経由して海馬に至る。また、「脈絡上のどこにあるか」という情報は、海馬傍回と嗅内皮質(内側)を経由して海馬へ至る。海馬においてこれらの情報が連合されるという仮説を提出している。(これらは側頭葉内側に入るが少しずつ役割が違っている。)

また、動物では内側側頭葉は記憶だけでなく、機能分化があり海馬は空間分別、周嗅野は物体弁別に関与している。

 

~海馬は空間のナビゲーションに関与~

O’Keefeらは、ラットの海馬の細胞活動について微小電極を用いて検討したところ特定の場所で特定の方向を向いたときだけに活動するニューロン(末梢細胞)が存在することを見出し、特定の場所を通り抜けるときに主に活動することが解明され「場所細胞」(place cell)と名付けた。

海馬の中には特定の場所を特定する場所があり、海馬は記憶だけでなくナビゲーションにも関与している。これも記憶の一種といえる。

以上、武田克彦先生に「記憶」をテーマにご講演頂きました。次回は、平成30年8月9日にご講演して頂く予定となっております。

 

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