第33回「てんかん」
平成30年5月10日桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。
講師は、当院リハビリテーション科の武田克彦先生(第40回 日本高次脳機能障害学会学術総会会長)。
テーマは「てんかん」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告いたします。
てんかんとは
てんかんとは、種々の原因(先天性、外因:外傷、腫瘍、脳血管障害など)により起きる慢性の脳の病気である。自発性かつ反復性の発作、脳波検査で発作性放電、多彩な発作症状を示す。
てんかんは、2000年以上にわたって前から病として知られており、根本的な治療についての模索がまだ行われている病気である。
有病率は約0.6‐1.0%とされており、日本には推定で72万から120万人の患者がいるとされている。発病年齢は10歳までが多いが、すべての年齢層で初発する。
先天性と外因(外傷、腫瘍、脳血管障害など)に分けられ、年齢ごとに主たる病因は異なる。0-14歳までは先天性が約60%であり、65歳以上では脳血管障害に起因するものが約60%である。
てんかん発作とは
脳における過剰なニューロン活動による一過性の症状である。一部の脳部位から過剰な異常放電がおこる部分(焦点、局所)発作と中心脳系から過剰な異常放電がおこる全般発作に分けられる。
部分(焦点、局所)発作 | 全般発作 |
---|---|
単純部分発作(意識障害を伴わない) 複雑部分発作(意識障害を伴う) 2次性全般化に移行する発作 |
欠伸発作、ミオクロニー発作、間代発作、強直発作、強直間代発作、脱力発作、 未分類てんかん発作 |
高齢者のてんかん
てんかん発症率は高齢者で最も高いとされ、65歳以上の方の1.5%がてんかんを有している。
高齢者のてんかんの原因は脳血管障害によることが多く、脳血管障害の急性期におきることもあり、また慢性期におきることもある。
脳腫瘍もてんかんの原因となりうり、腫瘍の成長や治療に伴う脳の変化で発作をきたしやすくなったり、逆にきたしにくくなったりする。
また、腫瘍への治療の薬を服用しているために、抗てんかん薬との相互作用がありうる。
脳挫傷もてんかんをおこしうる。脳挫傷とは、頭部に加わった外力によって脳実質の損傷をきたし、脳組織の座滅、浮腫、小出血などを生じた状態である。
アルツハイマー病の患者は、一般の人口に比しててんかんを有する危険は5倍以上とされる。
また、てんかんは、年齢が上がるほど部分発作が増加し、中でも複雑部分発作が多くなる。
複雑部分発作とは
上腹部の不快感を示し、次いで動作停止、凝視自動症(口、手の動き、発話、歩行など)などを生じる。しかし、発作のあったことは覚えていない(意識の減損)。
発作の持続は2-3分であり、時に全身性のけいれんとなる。
高齢者の複雑部分発作とは
上腹部の不快感などの前兆がなく、意識の減損、動作停止、自動症などを生じる。発作の持続は2-3分ではおさまらず、朦朧とした状態が数時間から数日続く。
また、全身性のけいれん発作にはならない。
てんかん患者の検査
MRIは小さな脳梗塞、脳腫瘍などの検出に優れており、25歳以上のてんかん患者においては、脳画像診断は治療可能な病変を見つけるために必ず施行するべきである。
失神とてんかんの鑑別
てんかんは、失神、一過性脳虚血発作、一過性全健忘と区別する必要がある。
失神では筋肉は弛緩し、その時間は10秒以内、尿失禁・舌を咬むことは少なく、皮膚は青白くなる。
てんかんでは筋肉は硬直することがあり、時間は1‐2分、尿失禁・舌を咬むことはまれではない。
失神の場合は、心電図(ホルター心電図含む)などの検査を行うことが必要となる。
脳波
発作間欠期の1回の脳波検査でてんかん性異常波が認められるのは5割である。
また、5回検査を行ってみてもてんかん性異常波を検出できるのは7割にとどまる。
高齢者の脳波の正常と異常の境は難しく、高齢者のてんかんの診断率は73%といわれている。
てんかんの治療
最初のてんかん発作後にすぐ抗てんかん薬は投与しない。1回目の発作の20‐30%は急性発作(急性の脳障害、代謝性変化、中毒性要因など)であり、再発率は3‐10%と低くなっている。2回目以上発作を繰り返した場合は、その後の発作の再発率は70‐80%であり、この時点で薬物療法を開始する。
抗てんかん薬による治療を開始すべきか否かは大事な決定である。てんかんの診断がなされ、再発のリスクが高く、患者がきちんと理解した場合には治療を開始する。てんかんに対する誤解や偏見を持っている患者もいる為、てんかんに対するわかりやすい説明を行い、正しい知識の教育が必要となる。
高齢者における抗てんかん薬の投与
① 少量からはじめて漸増すること
② テグレトールは、アレルギー、ふらつきがある。
③ アレビアチンは、めまい、ふらつきに注意する。
④ デパケンは、焦点性のてんかんの場合にはかなり血中濃度を上げないとコントロールに至らない。
単剤療法で効果のない時は、用量は適当だったか、選択は適切だったか、診断は正しかったのかを検討する。薬物の血中濃度をチェックし、低い濃度だった場合まずは増量する。
薬を加える時は最初の薬は減量せずに新しい薬を加える。患者の症状が十分コントロールされた後に、前からの薬を中止する。
以上、武田克彦先生に「てんかん」をテーマにご講演頂いた内容をご報告します。
次回は平成30年6月14日にご講演して頂く予定となっております。
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