第31回「左ききの神経心理学」 | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第31回「左ききの神経心理学」

平成30年3月15日桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。講師は、当院リハビリテーション科の武田克彦先生。
テーマは「左利きの神経心理学」と題し講演して頂きましたのでご講演内容を報告致します。

~左利きとは~

左利きの方は台湾で2%以下であるがUSAでは12%と高確率である。USAにおける経年変化を調べた研究によれば、左利きの割合は1930年には2%強であったが、1970年は11%に増加した。
左利きを詳しく調べるとだいたい両手利きである。利き手の概念は単に右利き、左利きという分け方から、一連のスペクトラムを持つ右利きとして考えられるようになってきている。したがって左利きとせず非右利きと表現されることもある。

~左利きへの偏見~

多くの社会は、左利きは劣るものとみなしてきた。右が正しいという価値基準をあらわすことが多いためである。多くの伝統的文化圏では左利きは、清められるべきものであり、左利きの子供は利き手交換を強制された。

~左利きは短命か~

この社会では、右利きとして生きて行くほうが都合がよく、負担も少なく行き易い。したがって右利きにと変更していった結果である。野球年鑑を用いた研究があり、右投げ右打ちと左投げ左打ちの2択で平均寿命を比べたところ有意差を持って左利きが短命であった。
左利きが出現する原因の1つに周産期で生じやすいさまざまな問題(脳の損傷等)が推察できる場合に左利きになるという考えがある。また、アレルギー、ぜんそくなどが左利きに多い。免疫系に問題を持つ可能性が高い。

~利き手の調査~

エディンバラ利き手テストでは側性化係数を計算できる。例えば①で、ほとんど右手であれば右1となる。両手は右1左1とし、ほとんど左であれば左1となる。右左のそれぞれの側の点数を合計する。右‐左の点数合計を右+左の点数で割る。

①文字を書く
②ボールを投げる
③鋏を使う
④歯ブラシを使う
⑤絵を描く
⑥マッチを擦る
⑦箒を持つとき上になる
⑧フォークを持たない時にナイフを持つ
⑨箱のふたを開ける
⑩スプーンを持つ

※H.N.利き手テスト(日本版利き手テスト)

 

 

~失語の定義~

中枢神経系の後天的な損傷によって言語によるコミュニケーションの障害が生じることがある。言語の理解(受容面)や口頭言語の生成(表出面)の過程の両方が程度の差があるにしても障害される。

~我々は左脳で話す~

Brocaは、言葉と前頭葉との関係を見出しただけではない。左脳と言葉との関係を見出した。1861年の時点でBrocaは病変が左側にあるという重要性をまだ認識していなかったが、その後8例の失語患者を次々に研究した。8例の失語患者はすべて同様の言語の障害を有していた。彼らの自発話はきわめて貧弱で、時に1つの表現にとどまっていた。それら8例がすべて左脳の障害であることにBrocaは気づいた(1865)。左脳の損傷後に失語が生じるという説の妥当性はきわめて高い。おそらく97~99%確かであると言われている。ただ1%位の例外があり、それを交叉性失語と呼んでいる。

~左利きの失語例~

左利きで、左脳損傷後に失語になる方が右脳損傷後に失語になることより多い。ただ、その割合は報告によりかなり幅がある。その理由の1つとしては、左利きの場合その言語機能は両側に表現されている例があるからではないか。Segalowitzらによれば、右利きはどちらの脳であっても、ともかく脳に損傷が生じたときに、約33%で失語の症状を生じる。一方、左利きではその率は約39%であって左利きの方が脳損傷で失語が生じやすい。

~左利きの失語について言われてきたこと~

① 右利きに対して失語を発祥する割合が高い
② 重篤な失語が少ない
③ 経過が比較的良好で、早期回復の傾向を示す
④ 発語の表出面の障害が多いが受容面の障害が少ない
⑤ 書字障害は軽度であるが、読みの障害ははっきりしている
⑥ 古典分類では典型的な例が多い
⑦ 非流暢性失語が多い

~左利きの失語の回復~

左利き例では、失語は一過性ではないかという意見があるがそれを支持する十分なデータはない。左脳の損傷による右利き失語群と左利きの失語群の比較によれば、回復にはっきりとしたさは見られなかった(Basso)左利きで右脳の損傷よる言語の障害は軽度であるという報告もある。

~左利きの発達~

生得説は、大脳半球の機能は遺伝的に規定されており、利き手に発達過程で変わるものではない。
段階的発達論は、乳幼児期までの左右の半球に機能の左右差はなく、発達が進むにつれ次第に機能差が現れ、拡大し続け思春期には完成する。(段階的発達理論の修正版も存在する。)

~利き手は何歳ごろから完成するのか?~

近年かなり早い時期から、片方の手を使うことが見られるという報告がなされた。超音波診断で胎児の手指の動きを観察すると、胎児が指を吸う運動をした場合、口元に手を動かす行為で左手を使用する割合は、8%と報告された。
この%が左利きの頻度に近いことから、利き手は従来考えられていたよりずっと早くに成立しているのではないかと考えられるようになった。

~左利きはなぜ~

対立形質モデルがアネットにより主張された。このモデルでは、右傾因子(RS)と名づけられた右利きの優位性を発現する因子がヒトの遺伝子情報の中にあると仮定する。この右傾因子は、左脳の運動優位性と言語機能の左脳優位に関係する。
RS+RS-という2つの対立形質遺伝子を想定し、RS++、RS+-、RS-+、RS–の4つが生じるが優性のため前3つは右利きとなるが、最後の場合は決まらない。環境要因で、右利きになるか左利きになる場合がある。

~脳病理原因説~

遺伝子が規定して左利きになる自然なタイプと神経系のなんらかの病理的原因により、本来は右利きになるはずなのに左手を使うようになったタイプの2種類がある。
胎児は、胎児期や出産時に脳損傷を受けやすい。そのため、左右それぞれの手を司る部位に損傷を受けたために、反対側の手の運動を司る部位が優位になる。双子に左利きが多いことも1つの根拠になっている。

~ゲシュヴィンドの考え~

テストステロンの濃度が、この環境要因では中心的役割を果たす。このホルモンが、胎児の段階で左脳の特定部位の発達を鈍化させる。そして右脳の対称部位を過剰発達させる。その結果、右半球は左半球より先に発達する。
テストステロンの血中濃度レベルにより、左脳の後頭部の発達が遅れ、左脳が正常に発達するのが妨げられることが左利きにつながる。左脳の発達の遅れが、右脳の対称部位である後頭部分を発達させる。これらが、発達性の読字障害(dyslexia)や免疫系の発達の遅れを引き起こす。以後、この考えに沿って多くの研究が行われた。
シルヴィウス裂の長さ、側頭平面の長さや面積に左右差があり、左側で大きい例が65~94%を占めることが報告されている。しかし、言語優位半球との関係を直接調べたものはほとんどなく、解剖学的左右差から各個人において言語優位半球を決めるのは難しいと今は考えられている。
発達性読字障害は、左利きと右利きで差がないという報告がある。重症筋無力症の利き手の調査では、右利きのほうが多いという報告がある。そもそも左利きでテストステロンの血中濃度が高いかを疑うデータもある。

~ゲシュヴィンドの考え~

テストステロンの濃度が、この環境要因では中心的役割を果たす。このホルモンが、胎児の段階で左脳の特定部位の発達を鈍化させる。そして右脳の対称部位を過剰発達させる。その結果、右半球は左半球より先に発達する。
テストステロンの血中濃度レベルにより、左脳の後頭部の発達が遅れ、左脳が正常に発達するのが妨げられることが左利きにつながる。左脳の発達の遅れが、右脳の対称部位である後頭部分を発達させる。これらが、発達性の読字障害(dyslexia)や免疫系の発達の遅れを引き起こす。以後、この考えに沿って多くの研究が行われた。
シルヴィウス裂の長さ、側頭平面の長さや面積に左右差があり、左側で大きい例が65~94%を占めることが報告されている。しかし、言語優位半球との関係を直接調べたものはほとんどなく、解剖学的左右差から各個人において言語優位半球を決めるのは難しいと今は考えられている。
発達性読字障害は、左利きと右利きで差がないという報告がある。重症筋無力症の利き手の調査では、右利きのほうが多いという報告がある。そもそも左利きでテストステロンの血中濃度が高いかを疑うデータもある。

~言語と運動を司る部位に近いのは?~

ヒトの言語は身振りから進化したとする説がある。叙述は、身振りから進化しているため、利き手と言語が関係ある。右利き例は、話すとき右手をよく動かす。しかし、左利きは両方の手を動かす。

~利き手により失語が生じる確率~

Luncheon seminar の様子

以上、武田克彦先生に「左利きの神経心理学」をテーマにご講演頂いた内容をご報告します。
次回は平成30年4月12日にご講演して頂く予定となっております。

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