第26回「知能検査」
平成29年10月14日桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。講師は、当院リハビリテーション科の武田克彦先生テーマは「認知機能の検査法」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告致します。
~知能検査の歴史~
精神遅延児と普通児の分類し、精神遅延児は特殊教育を行うべきだという考えからビネシモン検査が開発された(現在もビネー式検査がある)。
また、軍隊における効率的な人員配置ということで開発されたのが陸軍α(言語性)陸軍β(非言語性)検査である。これらを基礎にウェクスラー知能検査が開発された。
~ウェクスラー式知能検査~
これらがのちに進歩し、WAIS、WISC、WAIS-R、WISC-R、WAIS-Ⅲ、WISC-Ⅲと次々に改訂されていく。各検査の対象年齢は以下の通りである。
・WAIS16-64歳
・WAIS-R16-74歳
・WAIS-Ⅲ16-89歳
~キャロルによる3層モデル~
第3層;一般知能
第2層;8つの様々なタイプの知的能力
第1層;個別的な知的能力
~ガードナーの多重知能~
知能は以下の異なる7つの因子からなる。
①言語的知能
②論理的数学的知能
③空間的知能
④身体運動的知能
⑤音楽的知能
⑥対人的知能
⑦個人内知能
~Williams症候群~
エラスチン遺伝子を含む7q11.23部分欠損を持つ隣接遺伝子症候群であり、心血管系の異常、特徴的な顔貌、精神発達遅滞を症状とする。認知能力の分野ごとのギャップが大きく、言語による描画が生き生きとしている。表出面は流暢であるが、理解能力が優れている訳ではない。
~WAIS‐Ⅲ~
・個別式知能検査である。
・検査は、言語性検査と動作性検査から構成される。
・偏差IQを採用しており、全検査IQ、言語性IQ、動作性IQ、言語理解指標、知覚統合指標、作動記憶指標、処理速度指標、各下位検査の評価点が算出される。
[検査内容]
1.言語性検査(単語、類似、算数、数唱、知識、理解、語音整列)
単語:単語の意味を説明する。「○○とはなんですか」「どのようなものか説明して下さい」など。
→脳損傷に影響されにくく、損傷前の知的水準を推定できる。
類似:2つの単語の共通点を説明させる問題。「どのように似ているかを答えて下さい」など。
→現実を抽象化して論理的に推理し、言語による概念形成の指標となる。
左半球の損傷例によって低下する。
算数:紙と鉛筆を使わずに初歩的な算数の問題を解く。
→計算能力、言語読解の能力もみる。注意力・集中力も必要。
数唱:数字の系列を1秒につき1個のスピードで読み上げ、順唱と逆唱からなる。
→作動記憶をみる。認知症では逆唱が低下する。
知識:社会的な知識、自然現象に対する知識の問題。
→知識や語彙は年齢の影響を受けにくく、また神経心理的な損傷を受けても障害されにくいといわれている。
理解:日常的な問題解決や社会的ルールに関する様々な事柄の理解を調べる。
→適応力、また問題解決能力をみる。
語音配列:数字とかなの組み合わせを聞き、数字は大きさの順に、かなは五十音順に並べる。
→短期記憶、注意力をみる。
2.動作性検査(絵画完成、符号、積み木模様、行列推理、絵画配列、記号探し、組み合わせ)
絵画完成:大事な部分が描いていない絵カードをみせて、それがどこかを当てさせる問題。各問題の制限は20秒。
→時間が制限されており、視覚的に認識する能力をみる。
符号:数字1-9に対応する記号がある。数字はランダムに配列され、数字をできるだけ早く記号に置き換える。
→目と手の協応、視覚的な短期記憶が関与する。脳損傷で低下する。
行列推理:4種類の非言語的推理問題。一部が空欄になっている図版をみて、その下の選択肢の中からあてはまるものを選ぶ。
→レーブンによく似ている。教育や文化の影響を受けにくい。視覚的情報処理、非言語的な抽象能力をみる。
絵画配列:3~6枚の絵カードをみせて意味のある話に並び替える問題。
→全体的な状況の理解、連想の速さなどをみる。文化的な影響を受ける。
記号探し:左側の記号見本と右側の記号を見比べて、見本と同じものがあるかを探す。
→情報処理速度を調べる。
組み合わせ:カードの断片を所定の配列でみせて正しく組合させる。
→断片から全体を推理する能力、視覚と運動の協応能力をみる。
[簡易実施法]
・2下位検査(行列推理、絵画完成)
・4下位検査(符号、知識、行列推理、数唱)
上記を用いてその評価点から、全検査IQを推定できる
[解釈]
・全検査IQを解釈する
全IQは一般的な知能をもっともよく代表し、大学の成績とよく相関する。また、教育程度を確実に予測できる。
~WAIS‐R~
[簡易実施法]
・2下位検査(知識、絵画完成)
・3下位検査(知識、絵画完成、数唱)
・4下位検査(知識、絵画完成、符号、類似)
上記を用いて、推定FIQを出すことができる。
~ウェクスラー知能検査の特徴~
・下位検査の素点を評価点に換算する。
評価点は平均10標準偏差3
・評価点は合計でIQに換算する。
平均100標準偏差15
・各指数を計算する。
平均100標準偏差15
~言語性IQ動作性IQ~
言語性IQと動作性IQの差はありふれている。10点以上の差はなんと37%もいると言われている。20点以上の差も7%いる。25点も離れていれば、器質的なものも推定される。
・右半球損傷例では、言語性IQ>動作性IQ
・左半球損傷例では、動作性IQ>言語性IQ
・アルツハイマー病では、言語性IQ>動作性IQ
~群指標~
作業記憶(WM):算数、数唱、語音整列よりなる、作動記憶の容量、集中力、注意力などを総合的に示す。
処理速度(PS):符号、記号探しからなり、情報をすばやく解読して、処理する能力をみる。器質的な脳損傷の発見につながる。
実際の診療においては、MMSE・HDS-Rなどを施行し、それらの点数を参考にして認知症の診断に用いることが多い。
~Mini-Mental State Examination(MMSE)~
スクリーニングテストとして国際的に広く用いられている。施行時間は10分程度と短く、事前に被験者の情報を知る必要がなく施行できる簡単な検査である。
質問項目は以下の11項目からなる。30点満点で23/24がカットオフポイントである。
①時の見当識
②場所の見当識
③単語の記銘
④注意と計算
⑤単語の遅延再生
⑥物品呼称
⑦復唱
⑧3段階命令
⑨読字
⑩書字
⑪構成
アルツハイマー型認知症では、時の見当識と単語の遅延再生が早期に障害される。
~HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)~
スクリーニングテストとして用いられており、老人の大まかな知能障害の有無とおおよその程度を判定することができる。施行時間は10分程度と短く、事前に被験者の情報を知る必要がなく施行できる簡単な検査である。
検査項目は以下の9項目からなる。満点は30点で、20/21がカットオフポイントである。
①年齢
②日時の見当識
③場所の見当識
④3単語の記銘
⑤計算
⑥数字の逆唱
⑦3単語の遅延再生
⑧5つの物品記銘
⑨言語の流暢性
アルツハイマー型認知症では、日時の見当識と3単語の遅延再生や5つの物品記銘が早期に障害される。
WAISは全体的な評価となるが、簡易的指標としてMMSE・HDS-Rを実施することができる。
以上、武田克彦先生に「認知機能の検査法」をテーマにご講演頂いた内容をご報告します。
次回は平成29年11月16日にご講演して頂く予定となっております。