第25回「記憶検査」 | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第25回「記憶検査」

平成29年9月14日桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。講師は、当院リハビリテーション科の武田克彦先生。
テーマは「記憶検査」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告致します。

~記憶障害とは~

記憶をみる側面として、新しいことが覚えられない前向性健忘と、自己史の健忘などの逆向性健忘があげられる。逆向性健忘の検査バッテリーの標準化は困難であると言える。

~記憶障害を鑑別するための検査~

① 言語性記憶:三宅式記銘力検査、Buschkeのテスト
② 視覚性記憶:Benton視覚記銘検査、Reyの複雑図形
③ 標準化された検査バッテリー:ウェクスラーメモリースケール改訂版(WMS-R) / リバーミード行動記憶検査(RBMT)
④ 手続き記憶:鏡映像描写検査、ハノイの塔

~言語性記憶と視覚性記憶~

言語性記憶の検査は大きく分けて「物語の記憶」と「対連合」があり、他には、複数の単語を提示し、再生・再認させるものがある。直後と遅延再生を含むものが有用である。記憶が障害されていると、特に遅延再生が困難になる。
視覚性記憶の検査は言語化困難な複雑図形の記憶があり、記憶を頼りに図形を描かせる場合が多い。しかし、実際は明確に言語性と視覚性記憶を分けて評価するのは難しい。
潜在性記憶の検査として、鏡映像描写検査、ハノイの塔がある。

~各検査~

Ⅰ、言語性記憶

[三宅式記銘力検査]

有関係対語、無関係対語、それぞれ10組で構成され、2秒間隔で提示を行い復唱してもらう。健常者は2-3回の施行で全問正当可能だが、健忘患者は複数回提示しても成績の向上がみられない。
無関係対語になると加齢の被影響高く、健常と非健常の区別が難しくなるが、年齢群別の成績データがある。
現在は、S-PAの使用が進められている。

[Buschkeのテスト]

検査者が10の動物名を2秒毎に提示し、覚えることができた動物名を回答させる。続いて、検査者は想起できなかった動物名の提示を行い、12施行まで繰り返す。健常者は施行を繰り返すことで再生できる単語が増えるが、健忘患者は増加しない。

Ⅱ、視覚性記憶

[Benton視覚記銘検査]

幾何学図形を見せて覚えさせ、それを思い出して描いてもらう検査であり、10枚一組で3種類の形式がある。施行方法は以下の4つである。

A:各図版を10秒提示、直後再生
B:各図版を5秒提示、直後再生
C:各図版提示、図形を模写
D:各図版10秒提示、15秒後再生

正確に再生できた数と再生できなかった図版に対しては、誤謬数を採点していくが、半側空間無視など、他高次脳障害の影響を受ける。また、言語を介していないかは疑問点である。

[Rey Osterriethの複雑図形]

模写を行わせるが、覚えておくようにとの教示はしない。3-40分後の遅延再生を行わせるが、特に遅延時間は決まっておらず直後再生を含める場合もある。
18ユニットからなり、各ユニット2点、合計36点で採点。言語化して覚えることも可能。半側空間無視、構成障害の影響を受ける。全体から端へ描き進める場合が多く、再生しやすい。前頭葉機能の障害がある場合は、方略を見出せない場合がある。

Ⅲ、標準化された検査バッテリー

[WMS-R(Wechsler Memory Scale-Revised)]

欧米ではFourth Editionが出ている。
適応年齢は16-74歳であり、9つの年齢群毎に標準化され、検査の所要時間は健常者で40分-1時間程度。
5つの記憶指標(「言語性記憶」、「視覚性記憶」、「一般的記憶」、「注意/集中力」、「遅延再生」)からなり、WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)のIQと比較できるようになっている。
9つの下位検査から成り立っている。

1:個人的、公的な知識と見当識(Information and Orientation Questions)
2:心的操作(Mental Control)
3:形の再認(Figural Memory)
4:論理的記憶(Logical Memory)
5:視覚性対連合(Visual Paired Associates)
6:言語性対連合(Verbal Paired Associates)
7:視覚性再生(Visual Reproduction)
8:数唱(Digit Span)
9:Visual Memory Span

健忘患者の成績は「注意/集中力」は健常者と変わらないが、「言語性記憶」、「視覚性記憶」、「一般的記憶」指数は健常者を下回り、「遅延再生」指数は健忘の重症度によらず0になることが多い。

[RBMT(RivermeadBehavioural Memory Test)]

Wilsonら(1985)作成を、綿森、原らが2002年に日本で標準化した。
検査内容は日常生活に即し、難易度が同程度のものが4種類作られ、学習効果を避けている。施行時間は30分程度であり、39歳以下・40-59歳・60歳以上の3つの年代別でカットオフ特典が決められている。
重症度により、以下の目安になる。

<重度>病棟生活要監視
<中等度>通院が可能なライン
<ボーダー>通勤・通学が可能

検査内容は以下の11項目

1:写真の名前を覚える
2:隠された持ち物を覚える
3:約束を覚える
4:絵の再認
5:短い物語を聞いて、直後と遅延再生をする
6:短い経路をたどる
7:用事を覚える
8:見当識
9:日付(見当識と別にするのは、日付のみ低下する例があったため、予備研究として)
10:顔写真の再認
11:新しい技術の学習

Luncheon seminar の様子

以上、武田克彦先生に「記憶検査」をテーマにご講演頂いた内容をご報告します。
次回は平成29年10月19日にご講演して頂く予定となっております。

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