第22回「失書」
平成29年6月22日桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。講師は当院リハビリテーション科の武田克彦先生。
テーマは「失書」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告します。
~失書(書字障害)とは~
(1)失語症に伴う失書
失語症状に合わせて失書にも特徴があるという意見がある。失語症に伴う失書を研究しても、話す側面と同じ様な症状が出てくるため、あまり研究されていなかった。リハビリでは、書字訓練よりも、話す・聞いて理解するという側面に対してリハビリを行っていくという考えがある。
(2)失語症がないのに失書を示す場合
①失読失書
左の角回に病変があり、失書だけでなく読みの障害も認める。(前回の講演内容を参照)
②純粋失書
失読・失語がなく、失書のみの症状である。病変は大きく前頭葉性と上頭頂葉性があると考えられている。前頭葉性は錯書(違う字を書いてしまう、省略してしまう)が症状として現れる。上頭頂葉性は失行性失書が症状として現れる。失行性失書は、外国ではスペルを言えるが書くことができない状態だが、日本語ではどういうものか説明することが難しい。失行がある人が失書を示すわけではなく、書字行為に関して失行性のものがあり失書を示すという考えである。
(3)失書の病変の位置について
失書に関して、以前は局在性ではないという批判的な意見が多く、失書は脳の全般性な障害により障害が出やすいのではないかと言われていた。しかし、現在は局在性なものと認められてきている。
~ゲルストマン症候群とは~
① 手指の失認
② 左右失認
③ 失書
④ 計算障害
ゲルストマン症候群には、上記4つの症状がある。病変は左の角回から第二後頭回にかけて移行する部分であると考えられている。
しかし、これに対していくつかの反論する考え方がある。
一つは、頭頂葉で起きる障害は①~④のみではないとする考え方である。例えば、構成失行や失行なども頭頂葉にて起こる。研究によって組み合わせとして①~④が症状として多いのかを調べると4つだけではないとの結論に至った。頭頂葉で障害されたものを調べると4つのみ特異的な組み合わせとして症状が出ているわけでなく、失行などと総称してゲルストマン症候群とする考え方である。
もう一方は、①~④すべての症状があるわけではないが、いくつか組み合わさって症状があり、共通して失語症があるということが報告されている。つまり、ゲルストマン症候群は失語症の症状の一部ではないかとする考え方である。
さらに、一方で純粋なゲルストマン症候群(失語症のない)もあるのではないかという考えも出てきた。
それを示す上での問題として以下の内容が挙げられている。
(1)評価方法の正確さ
ゲルストマン症候群に関しての原著は日本語で訳されている。しかし、評価の内容に関しての記載はない。例えば、手指失認においては、一般的な評価方法は「薬指はどれですか」などの言語命令が中心である。他には、検者の指を指し示す方法などもあるが、失語症があれば言語命令のみで評価することはできない。手の絵をかいて「指の間に何本ありますか」などと質問し評価することもあるが、原著には詳細に記載されていない。左右失認や失書についても同様に具体的には記載されていない。計算障害においては、数字の概念の問題なのか、演算(+、-)の概念の問題なのか、詳細に記載されていない。つまり、原著には4つを正確に診断するプロセスが記載されていない。診断する際の評価が曖昧であり、問題とされている。
(2)症候群の捉え方
一つは、症状を個々に分けて分析し、それぞれがどういうところで起きているのかを明確にして、まとめられた症状を症候群として捉える考え方である。もう一方は、①~④のすべての症状があったときに初めて症候群であると捉える考え方である。
以上、武田克彦先生に「失書」をテーマにご講演頂いた内容をご報告します。
次回は平成29年7月13日にご講演をして頂く予定となっています。