第20回「失読〜1〜」 | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第20回「失読〜1〜」

平成29年4月13日桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。講師は当院リハビリテーション科の武田克彦先生。
テーマは「純粋失読」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告します。

~純粋失読とは~

純粋失読とは、読みが選択的に障害されている病態です。音声障害はほとんど伴わず、書字も概ね保たれますが、自分で書いた文字が後になると読めません。しかし、文字を指でなぞると読めることがあります(Schreibendes Lesen)。日本人では多くの場合漢字も仮名も読めなくなります。
純粋失読を調べるとき、失語症はないかを確認して失語性失読と区別します。また、文章の左側の文字を見落とす場合は、左半側空間無視が考えられます。文字が読めない・書けないという状況があれば、失読失書が考えられます。

~Dejerineの報告~

Dejerine(1892)は、視覚野と角回を結ぶ線維の損傷によって純粋失読が起きると説明しました。すなわち、言語の視覚像の中枢(優位半球の角回)と視覚一般の中枢を結ぶ破壊により失読が起きるということです。

~Gescwindの報告~

Gescwind(1965)は、離断症候群という概念を呈示しました。彼は異なる失語症候群というのは、言語野間、言語野と運動、感覚野との解剖学的離断によって生じる障害としてとらえるのが最も実りがある研究方法であると論じました。

~古典的純粋失読のメカニズム~

Dejerineによる純粋失読の説明は、「言語の視覚像の中枢と視覚一般の中枢を結ぶ繊維の破壊」、Geschwindによる純粋失読の説明は、「右同名半盲+脳梁後部の損傷」であるとされています。

~非古典的純粋失読~

河村によると、古典的純粋失読とは、異なる部位の障害(脳梁膨大部を含まない)により、左右の視覚野からの視覚情報が左半球内の一つの病変により同時に遮断されることであるとし、角回皮質直下型と側脳室後角の下外側(後角下外側型)に分類しています。
また、これらの原因としては、梗塞以外に動静脈奇形、外傷、出血、一酸化炭素中毒等と多彩です。

~仮名と漢字の読み~

河村によると、仮名は視覚野から直接角回に至る経路で処理されるのに対し、漢字は左側頭葉を通る経路と仮名同様に直接角回に向かう2つの経路があるとされています。
それに対して、岩田らによると、視覚領域から左中後頭回(19野)に向かうのが音韻読みの経路であり、仮名の処理に用いられるとし、視覚領域から意味との連合が行われる左側頭葉下部を介して角回に至るのが、意味読みの経路であり、漢字の処理に用いられるとされています。

~仮名と漢字の乖離~

日本人の読みの障害は、仮名あるいは漢字に選択的な失読、失書の症状が独立して存在しているため、漢字と仮名の処理過程あるいはその一部異なるとされています。
一方、波多野らは文字の複雑性、使用頻度、教育学年を考慮したところ乖離はなかったと報告し、杉下らは従来の検討における漢字と仮名の頻度統制などの検査条件や統計処理の不備を指摘しており、明確な答えは出ていません。

~離断説への疑問~

純粋失読では一文字が読めるのに単語が読めないことが認められますが、これは離断説で説明できるのでしょうか。
純粋失読症を持つ患者では、数字の読字や物品呼称や色の呼称が保たれる場合がありますが、これは Geschwindの説明では困難であるとの反論がありました。
これに対し、Geschwindは、「物品は他の感覚modalityと豊富な連合を持っており、そうした多数の連合の喚起は、純粋失読の患者では損傷されない脳梁の前部を通る経路を介して情報が左半球に達する可能性を生むのである」としています。
しかし、この説明では色の名前が言える場合が説明できません。なぜなら色は肌触りもなく、他のmodalityを喚起するとは考えにくいためです。
また、Geschwindは、数字が保たれることに関しては、「数は文字の読みとは異なる学習のされ方をするからだ」と述べています。すなわち、数の学習は強力な体性感覚の強化(指折り)と関係しており、幼児期のかなり後まで、数えるために自分の指を使っているためと言われています。

~Farahの純粋失読~

Farahによると、純粋失読とは多数の対象物を迅速に認知する我々の健常な能力の障害と述べています。(同時失認に近い)
例として、一つの絵の中で個々の物は理解できるが、絵を全体として捉えられないことが挙げられます。これは殆どの純粋失読の患者が読みの最中に文字を他の文字と誤って知覚してしまう為だと考えられます。そのため、読むという特殊な機能に対して神経学的なモジュールを仮定する必要はないとしています。

Luncheon seminarの様子

 

以上、武田克彦先生に「純粋失読」をテーマにご講演頂いた内容をご報告します。
次回は平成29年5月11日にご講演をしていただく予定となっています。

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