第16回「バリント症候群」 | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第16回「バリント症候群」

平成28年12月15日桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。講師は当院リハビリテーション科の武田克彦先生,テーマは「Bálint症候群」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告します。

~Bálint 症候群~

Bálint症候群は、精神性注視麻痺・空間性注意障害・視覚性視覚失調に分けられます。
精神性注視麻痺とは、患者は自発的に眼球を動かしたり、口頭命令によって動かしたりはできますが、一時に一つ、あるいは対象の一部分しか知覚できない症状を言います。
空間性注意障害とは、外界の右側に注意が向いて左側に呈示された刺激を無視する症状を言います。視覚性視覚失調は対象を注視上に捉えているのにも関わらず上手くつかまえることができないことを言います。

~Bálint 症候群の報告例~

B’alint症候群は、1894年にめまい後に調子が悪いことに気づいた患者を 1903年に診察し 1905年に右麻痺と失語症で亡くなるまで2年間調べました。病巣としては、角回や後頭葉の外郭、緑上回、上側頭葉の損傷でした。症状としては、視野障害は見られず、眼球の動きも特記が見られず、物品や絵・色の認知も良く、物品呼称にも問題がなく、地誌的見当識も良いにも関わらず、Bálint症候群の3つの症状を認めました。
この患者の精神性注視麻痺の特徴としては、患者の視野にはいつもひとつの対象しか占めない、各行を読むのに促しを必要とする、対象は中心の視覚を占めるや否や対象の右側にあるもの左側にあるものを認識されないといった特徴がありました。
空間性注意障害の特徴としては、文章を読む際に、一番上の文字を読み、次に二行目の右端の文字、三行目の右端といったように端の文字のみを読み、一行を読むためには検査者の助言を必要としました。つまり患者の注意は常に空間の右側に向けられていて右側の空間しか見ないという特徴がありました。
視覚性視覚失調の特徴では、対象を注視線上に捉えているのにも関わらず、うまく捉えることができないといったことがあり、右手の方が左手の障害より強かったと言います

~Bálint症候群の病巣~

報告例いずれもが両側性の頭頂・後頭葉に障害があると報告をされています。

~Homesの例~

戦傷例(弾丸が頭をあたる)を対象とした。最初の論文では6例が報告されており、その後別の論文では1例が追加されています。患者の視力は正常でしたが、眼を動かさないように 1点を注視し、動いているものを目で追うこともできませんでした。しかし眼でみたものが何であるか理解でき、視覚性失認は認めませんでした。患者のこの定位障害は上下左右どの方向にも同じように誤りがあり手の障害によるのではありませんでした。なぜなら物を使ったりはできていたし手の位置や運動に関する感覚は障害されていなかったためです。たまたま眼球を向けた方向にものがあればそれをつかむことができました。しかし、物の相対的位置関係を把握することは困難でした。Homesはこれらの症例の症状を眼球運動障害によるものであると考えました。一方Bálint症候群の報告した例では眼球運動障害は正常であったとされています。

~精神性注視麻痺のその後~

歴史的に見ると、同時失認という用語は Wolpertに遡ります。Wolpertはいくつかの要素の中から成り立っている複雑な絵について、その各要素については正しく把握することができるのに、その絵全体の意味を捉えられないという状態について記載しています。ところが Luriaはこの Wolpertとは異なる仕方で同時失認を捉えている同時に一個より多くの対象を見たり、注意を向けたりできないことをさしてこの同時失認という語を用いりました。その後、Farahは同時失認を3つのタイプに分類した。

① 狭義の同時失認・・・・線分の傾き、長さ、刺激の大小の異同判断が困難
② 背側型同時失認・・・・二つの刺激のうち一つの刺激のみ認知される
③ 腹側型同時失認・・・・・複雑な図、多数の刺激の中から同じ刺激を選ぶことが困難

 

Luncheon seminar の様子
Luncheon seminar の様子

 

以上、武田克彦先生に「Bálint症候群」をテーマにご講演頂いた内容をご報告します。次回は平成29年1月12日にご講演をしていただく予定となっています。

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