第10回「失行~2~」
平成28年6月16日桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。
講師は、当院リハビリテーション科の武田克彦先生(第40回日本高次脳機能障害学会学術総会会長)。
テーマは前回同様「失行」と題し、発語失行についての講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告致します。
~発語失行~
発語失行とは、Darleyの定義によると脳の損傷の結果、音素の随意的生産のために発話筋群の位置づけと筋運動の系列化をプログラムする能力が損なわれたために生じる構音障害であるとされています。
運動失語を示す患者が、食事や嚥下など自動的な行為に際しては、舌を動かすことができるにもかかわらず、特別に舌を出すことを指示するとしばしば行為が困難であることに気づきました。
その乖離があることから aprxia of speechと呼ぶべきである主張しています。
また、発語失行の特徴は、
① 音韻性の誤りが多い
② 一貫性に乏しい
③ 随意の発話では誤ることが多いが、自動発話では正しく発話できる
④ 復唱は特に困難
⑤ 口部顔面失行がしばしば合併する
と主張しています。
しかし、最初に言語における失行という考えはDarleyが初めてではありません。
失行についての報告をしている3人の考えを以下に記載をします。
Liepmann
Liepmannは、運動性失語は失行とであり、患者の失語症は発語筋群の失行症であると考えました。
言語運動自体は保持されているが、単に喚起がされないだけであるとしており、病巣は左第三前頭回あるいは島と考えました。
また、このほかに頭や顔や舌を動かす筋の両側性の失行症があると報告をしています。
Broca
Brocaはある時「タン」としか言わない患者を診察し、これが言語能力を失われた状態ではないかと考え、aphemieと呼びました。
患者は構音言語に特有な運動を秩序立てる機能を失い、語を構音するのに必要な操作の記憶を失った状態であると考えました。
Marie
運動失語と感覚失語の区別に反対をし、Broca失語の病巣は構音不能(アナルトリー)とWernicke失語の合併したものであり、失語はWernicke失語のみであると考えました。
最近の発語失行についての報告では、変動性(音素があるとき正しく、あるいは不正確に構音される。その誤り方も同一ではない)を重視する報告が多くなっています。
大槻らによると発語失行の考え方は、構音に歪みがある、音節が分離する、プロソディーに障害があると報告をされています。
今野らによると、発語失行を呈する患者は構音運動の異常が主であり音韻性の誤りではない、子音に誤りが多く誤り方の一貫性が乏しい、長い文章ほど誤りが多い、自動性-随意性の乖離は目立たないなどと報告をされています。
最後に発語失行と仮球性麻痺との鑑別としては、
① 麻痺がある
② 一貫性のある音のゆがみを認める
③ 音節数や母音の数は目標とするものに一致すると
④ 両側の病変である
ことです。
また、失語との鑑別は、失語は話す、聞く、読む、書くといったすべてにわたる障害です。
以上、武田克彦先生に「失行」をテーマにご講演をいただいた内容をご報告します。次回は平成28年7月14日にご講演をしていただく予定となっています。
一覧へ戻る