第43回 神経心理学の基礎にある考え方 | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第43回 神経心理学の基礎にある考え方

平成31年3月14日、桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。講師は、当院リハビリテーション科の武田克彦先生。今回は、「神経心理学の基礎にある考え方」について講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告いたします。

 

脳の機能については、ガレノスにより精気論が提唱され、それ以降は脳室が重視されてきた。

しかしFranz Joseph Gallは、白質を構成する線維束と大脳皮質との間に連続性があるということを説得力のある方法で確立した。それまで、大脳皮質は、そこを走る血管が多いことから分泌の器官であるとされていた。また白質は皮質が分泌した生成物を導くための精せいの場所であるとされていたが、Gallによって大脳皮質は本質的な物と考えられるようになった。また、視床に集まる繊維と視床から出る繊維があることも見出した。

脳は基本能力・傾向・質などすべての人間の資質の座である。しかもそれぞれの明瞭に異なる諸機能が大脳の明瞭に異なる領域が担う。これらの局在化は大脳の表面に割り当てられるさまざまな脳回にてなされる。記憶、判断などの諸能力は、今まで基本的能力であり、大脳(脳室)に帰されていると考えられていた。しかしGallは、記憶などはすべての能力に共通な一般的な特徴であり局在化しないと考えた。症例として、フェンシングの剣が、鼻から左の前頭葉に達した患者は、右麻痺と名前に記憶を失った。また、他の症例では、脳血管障害によって言葉を正しく話す機能がはなはだしく侵され、自発話はきわめて障害されていたが、舌は自由に動かすことができ、身振りで自分の意思を伝えることができた。これらの症例より、Gallは前頭葉が重要と述べるにとどまった。

 

Brocaは、自身が観察した患者Tan氏は構音言語が失われた例であるとした。患者は、言われたことは理解しているようで、示す行動はその場その場でよく合っていた。このことから患者の非言語的コミュニケーションは障害されておらず、理解は良いと考えた。そして、構音言語に特有な運動を秩序立てる機能、すなわち語を構音するのに必要な操作の記憶を失ったと考え、その状態をaphemieと呼んだ。そして、解剖学的所見としては、構音言語の能力が成り立つのは第3(下)前頭回が健全であることが必要であると述べた。

Broca 以後の局在論としては、まず、Wernickeが26歳のとき、「失語症候群―解剖学的基礎に立つ心理学的研究」というモノグラフを書いており、脳の均一性という考え方を拒否した。大脳皮質の個々の領域がそれぞれある精神作用を営むという考え方も採用しなかった。聴覚・視覚などは局在し、そういう基本的な能力を超える心的機能については、皮質の特定の箇所を相互に連結する連合系の働きによってなされると考えた。

1874年のモノグラフ最後の部分で、2例の感覚失語の例を記載している。両例ともに強い理解障害があり、話すことが困難であった。その話す障害はBroca失語の表出面の障害とはその性質が明らかに異なった。発話は少ないことはなく、停止や努力がみられなかった。流暢で、イントネーションも正常であったが、発話は意味をなさなかった。患者は音や語の選択に誤りを示した。1人の患者が亡くなり剖検を行ったところ、左上側頭回の後半部分に梗塞が認められた。Wernickeはこの部分が皮質の聴覚領に近いことから、話された言葉の理解をしている責任領域であると記載した。そこから、Wernickeはそれぞれが特殊な言語の能力に結びついている別々の解剖学的中枢や、それら同士の結合が存在するという考えが局在論を論じた。

しかし、局在論への反論を行った人たちの考え方(全体論)がある。全体論学派の支持者は、「失語患者は言語の境界を越えた障害を示す。失語は言語だけの障害ではなく、もっと中心的な機能-例えば知能-を反映した表現である。あるいは言語は脳全体の処理による結果である」と論じた。

Jacksonによれば失語とは、主なる障害は言語使用のより高いレベルの障害、すなわち命題化することの能力の障害よりなる。失語患者は適切な状況で、怒ったり、さよならといったりできるかもしれないが、外界の状況にかかわらず自分の意図や考えを伝えることができないと論じている。

MarieはBrocaの主張を否定し、第3前頭回は言語の機能に何ら特別の役割は演ずるものではないと述べた。Broca失語の病像は構音不能(anarthrie)とWernicke失語の合併であり、失語はWernicke失語だけであると述べた。それは語の聴覚イメージが失われたことによって起きるのではなく、教示を通して学ばれた考えの手段全体を指す知能が失われたことによると述べた。

 

以上、武田克彦先生に「神経心理学の基礎にある考え方」をテーマにご講演頂きました。次回は、平成31年4月11日に講演して頂く予定となっております。

 

 

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