第45回 認知症をきたす疾患 | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第45回 認知症をきたす疾患

令和元年5月15日、桔梗ヶ原病院リハビリテーション研修会Luncheon Seminarを開催しました。講師は当院リハビリテーション科の武田克彦先生。テーマは「認知症をきたす疾患」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告します。

 

日本には462万人の認知症患者がおり、その3分の2に当たる300万人がアルツハイマー病を原因としている。高齢になるほど、認知症を発症するリスクは高くなり、65歳以上では12~15%の方が認知症であると言われている。

認知症になると、老後の人生が楽しめないだけではなく、進行すると、生活の質(QOL)の低下(家族との人間関係が悪くなる、経済被害、機会損失等)を引き起こす。認知症の早期診断はこれらに効果があると言える。

DSM-Ⅳによる認知症(アルツハイマー病)の診断基準は以下の通りである。

多彩な認知欠損の発現で、以下の2つが存在する。

1)記憶障害

2)以下の認知障害の1つ、またはそれ以上

a)失語(言語の障害)

b)失行(運動機能が損なわれていないのに動作を遂行することができない)

c)失認(感覚機能が損なわれていないのに対象を認識または同定できない)

d)遂行機能(計画を立てる、組織化する、順序立てる、抽象化すること)の障害

 

認知症の評価で用いられる認知機能検査の代表としては以下の通りである。

  1. Mini-Mental State Examination

スクリーニングテストとして国際的に広く用いられている。施行時間は10分程度と短く、事前に被験者の情報を知る必要がなく施行できる簡便な検査である。

質問項目は、①時の見当識②場所の見当識③単語の記銘④注意と計算⑤単語の遅延再生⑥物品呼称⑦復唱⑧3段階命令⑨読字⑩書字⑪構成からなり、30点満点で23/24がカットオフポイントとなる。

アルツハイマー型認知症では、時の見当識と単語の遅延再生が早期に障害される。

  1. HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)

スクリーニングテストとして用いられており、老人の大まかな認知障害の有無とおおよその程度を判定することができる。施行時間は10分程度と短く、事前に被験者の情報を知る必要がなく施行できる簡便な検査である。

検査項目は、①年齢②日時の見当識③場所の見当識④3単語の記銘⑤計算⑥数字の逆唱⑦3単語の遅延再生⑧5つの物品記銘⑨言語の流暢性からなり、30点満点で20/21がカットオフポイントとなる。

アルツハイマー型認知症では、日時の見当識と3単語の遅延再生や5つの物品記銘が早期に障害される。

  1. WAIS-Ⅲ

個別式知能検査であり、言語性検査(単語、類似、算数、数唱、知識、理解、語音整列)と動作性検査(絵画完成、符号、積木模様、行列推理、絵画配列、記号探し、組合せ)から構成される。偏差IQが採用されており、全検査IQ、言語性IQ、動作性IQ、言語理解指標、知覚統合指標、作動記憶指標、処理速度指標、各下位検査の評価点が算出される。

 

認知症の原因の精査のために推奨されている検査は、血液検査(肝機能、血糖、甲状腺機能、梅毒等)、髄液検査、脳のMRI・CT、脳のSPECT・PETである。

 

アルツハイマー病は、アロイス・アルツハイマーが最初に記載した。アロイス・アルツハイマーは裕福なカトリックの家庭に育ち、他の人に尽くすことに喜びを見出す性格を持ち合わせ、ほとんど休みをとらず、報酬を受け取らなかったという。

アルツハイマー病の病理変化として老人斑が認められる。老人斑とは、神経細胞外にアミロイドβ(Aβ)蛋白が蓄積してできた、一見しみのような異常構造物である。本来可溶性の蛋白であるAβが、老化を背景とした何らかの要因によって凝集体を形成し、それが老人斑として脳内に沈着することで神経細胞がダメージを受ける病態をアミロイドカスケード仮説と呼ばれる。

アルツハイマー病の原因としては、老人斑を形成するβアミロイドという蛋白が次第に脳に蓄積してくる。蓄積したからといってすぐに発症はしないがそのうち発症してくると言われる。

神経細胞内に過剰にリン酸化されたタウ蛋白が蓄積してできた異常線維構造のことを神経原線維変化という。アルツハイマー病患者のMRIをみるとタウ蛋白とAβの分布は正常の高齢者に比べ多いことが分かってきている。

 

認知症には中核症状と周辺症状がある。

中核症状としては、記憶障害(新しいことを覚えられない、思い出せない)、失語(物の名前が出てこない)、失行(服の着方が分からない、道具がうまく使えない)、失認(物がなにかわからない)、実行機能障害(段取りが立てられない、計画できない)が挙げられる。

周辺症状としては、不安・焦燥(落ち着かない、いらいらしやすい)、抑うつ(気持ちが落ち込んでやる気がない)、妄想(物を盗まれたという)、幻覚(いない人の声が聞こえる、実際にないものが見える)、睡眠覚醒リズム障害(昼と夜が逆転する)、食行動異常(何でも食べようとする)、徘徊(衝動的に歩き廻る、外に出ようとする)、暴言・暴力・攻撃性(大きな声をあげる、手をあげようとする)、介護抵抗(入浴や着替えを嫌がる)が挙げられる。

アルツハイマー型認知症の症状は、発症前期は不安、抑うつ、物忘れ(MCI)が認められ、初期には記憶・記銘力障害、失見当識(時間)等が見られるようになる。中期には失名詞、着衣失行、構成失行、視空間失認、錐体路障害が見られるようになり、末期には人格変化、無言・無動、失外套症候群、精神症状、問題行動(妄想、幻覚、徘徊)を引き起こす。

認知症の行動心理学的症候は、抑うつ、不安、緊張、焦燥、妄想、幻覚などの精神症状と、落ち着きのなさ、暴言、暴力、徘徊、不適切な行動などの行動障害に分類され、精神症状は面接によって評価され、行動障害は観察によって評価できる。

アルツハイマー病の治療として、軽度~高度はドネペジル(アリセプト)、軽度及び中等度はリパスチグミン(イクセロン)、ガランタミン(レミニール)、中等度~高度はメマンチン(メマリー)が用いられる。

軽度認知障害(MCI)とは、軽度の記憶障害などがあるものの、日常生活に問題ない場合である。この軽度認知障害の方全員が認知症になっていくわけではないが、一部の方はアルツハイマー病に移行していく。75歳以上では22%に達するという報告もある。日常生活には問題がないとされるが、ど忘れとは違うより持続的な記憶の障害が認められる。かなり複雑な状態で、単なるアルツハイマー病の前段階ではない。

 

以上、武田克彦先生に「認知症をきたす疾患」についてご講演いただいた内容を報告します。次回は、令和元年6月20日に武田克彦先生にご講演をしていただく予定となっています。

 

一覧へ戻る