第49回 記憶 | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第49回 記憶

令和元年9月19日、桔梗ヶ原病院リハビリテーション研修会Luncheon Seminarを開催しました。講師は当院リハビリテーション科の武田克彦先生。テーマは「記憶」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告します。

 

記憶障害

 

1.症例HMについて

HM(1926-2008)は、10歳頃よりてんかんを発症した。薬物によるコントロールが難しく、1953年(27歳)の時に、両側側頭葉内側を切除した。

手術後にHMは、手術を受けたことを覚えてないといった症状が現れた。また、道具の置き場所を忘れてばかりだった。前日に芝刈り機を使っても翌日には場所が分からなくなる。同じ雑誌を繰り返し読むといった様子がみられた。一方で、両親や親戚は認識でき、語彙も豊かで、歯磨きや髭剃り、食事などの生活は普通に行えた。

→HMの術後の症状

○新しい事を憶えられない

○術前の出来事も思い出せないが、高校より以前のことは良く憶えている。

 

2.記憶障害

前向性健忘;発症後の物事が憶えられない。新しいことが憶えられない。

逆向性健忘;発症前の出来事が思い出せない。

☆HMの場合(逆向性健忘)

一般的な知識に依存して、記憶を手繰り寄せることはできたが、個人的な経験は思い出せない。例外は13歳の時に乗った飛行機のことと、最初にタバコを吸ったことは鮮明に覚えている。

 

3.記憶の分類

1)陳述記憶

Tulving(1972)は以下の様に陳述記憶を分類した。

エピソード記憶;日々の生活に関わる記憶。時間や場所、感情等の標識が付いている。事象と時間、空間における情報を連合し特徴付ける。

意味記憶;時間の経過により標識が消失し、語彙や概念、事実などの一般的知識になったもの。

☆HMの場合

エピソード記憶は重篤に障害されていた。意味記憶は新しい語彙は憶えられなかった(全く憶えられなかった訳ではなく、有名人の名前は少し憶えられた)。

 

2)非陳述記憶(手続き記憶、プライミング記憶)

行動化され意識化されない記憶。手続き記憶は、運動のやり方やルールを憶えるなどの記憶。また、手続き記憶にはプライミング現象がある。ある単語が前もって呈示されていたことを意識する必要がない。

例)「あ○○けん」が呈示→「あきたけん」、「あいちけん」のように想起する。

 

 

4.記憶障害の病巣(前向性健忘)

側頭葉内側部、間脳(視床背内側核、乳頭視床路)、前脳基底部が挙げられる。

HMの脳をMRIにて検討したところ、手術にて海馬の尾側1/2は萎縮しており、嗅内野はすべて切除され、周嗅野の一部と海馬傍回は残っていた。両側側頭葉内側の損傷が記憶障害を生じることが明らかになった。

 

 

以上、武田克彦先生に「記憶」についてご講演いただいた内容を報告します。次回は、令和元年10月17日に引き続き「記憶障害」について、武田克彦先生にご講演をしていただく予定となっています。

一覧へ戻る