第51回 ①遂行機能障害~前頭葉~ | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第51回 ①遂行機能障害~前頭葉~

 

令和元年11月21日、桔梗ヶ原病院リハビリテーション研修会Luncheon Seminarを開催しました。講師は当院リハビリテーション科の武田克彦先生。テーマは「遂行機能障害~前頭葉~」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告します。

 

 

  • 前頭葉の機能の解明の難しさ

前頭葉は神経解剖学的に複雑である。人間の行動を定義したり、記録や評価する事が困難である。人格・社会行動は包括的な概念であり、そこから派生する問題が極めて複雑である。

 

  • Phineas Gage

鉄道の拡張のために新しいレールを敷くのを仕事としている労働者の集団をとりまとめ監督することが彼の仕事である。バランスのとれた心を持ち、精力的に粘り強くこなすため、上司の評価は高く、その道でもっとも俊敏、有能な男であった。

1848年に作業現場で爆破が起き、鉄棒がGageの左頬にのめり込み、頭蓋骨の底部から大脳の前部分を貫通し、そのまま通り抜けて落ちた。鉄棒は重さが6.2㎏長さ109㎝直径は3.2㎝先端部は勾配がついて細くなって6㎜になっている。Gageは生き延びた。

事故の後、自分のみに起きたことを話すことが出来た。2ヶ月後には、左眼の失明、左眼瞼麻痺、左顔面神経麻痺(軽度)を残すのみであった。しかし、彼は元の職に復帰できなかった。彼の友人や知人は「彼はもうGageでは無い」と言った。

気まぐれで、無礼で、以前にはそんな習慣無かったのにひどく罰辺りな行為をする。同僚に敬意をはらわない。自分の願望に反する束縛や忠告にいらだつときにどうしようもないほど頑固になる。移り気、優柔不断、将来のことを考えはするがそれを段取りをとろうとするときにもやめてしまう。

5年ほどして彼の墓は掘り起こされ、彼の頭蓋骨と鉄棒は別の所に保管されている。DamasioがGageと前頭葉機能とをつなぐ架け橋となる研究を行った。次に鉄棒の軌跡の範囲をせばめた。人間の3次元画像を構築して、その脳貫通を再現した。

脳が損傷を受けると、その結果たとえ基本的な知能や言語は無傷であったとしても、それまでに身につけた社会的慣習や倫理的ルールを守ろうとする力が失われてしまう。Gageでは将来を見据え計画をたてる能力、責任感、自分の生き方を練り上げる能力などが失われた。

 

  • ある若者が画家を目指す

将来の画家は、自分が絵を描いている姿や、自分の絵が展覧会に飾られていることを思い描く。絵の勉強をするには、独学、誰かに師事する、大学を目指すなどがある。大学と決めても地元か、大都市か、外国か等がある。

 

  • 遂行機能とは

自立した、目的に合った、自分のための行動を行う能力であり、4つの構成要素に概念化できる。

  • 意思(volition)
  • 企画(plannning)
  • 目的に合った動作(purpasive action)
  • 実行(effective performance)        (Lezak 1995)

 

狭義の遂行機能障害とは、

個々の認知能力は保たれているのに遂行機能が障害されていること

 

  • 以下の症状をまとめて遂行機能障害とよぶ(Damasio)

未来の行動を計画したり定職につき続けたりする能力がない。自分自身に対して肯定的な評価を下す傾向、きちんとした礼儀を行うが紋切り型的な点に共通性があるという。行動学的に見ると、【順応性の欠如 思慮分別のない決断 決断力の欠如 自己修正の障害 未熟な行動 保続 機転のきかない行動 無気力 会話の欠如 精神的な努力の欠如】などが言われている。

 

  • 遂行機能障害1 概念化の障害

調べる検査としては、

  • ことわざの理解 (例;急がば回れ、覆水盆に返らず)
  • 類似問題 (例;バナナとリンゴ)

 

  • 遂行機能障害2 心のしなやかさ

非日常的な状況を、内的に組織化された認知的ストラテジーを用いて克服すること。

調べる検査としては、

  • 語流暢性(1分間に例えば動物の名前をたくさん言ってくださいなどど調べる)

参考;「1分間に例えば”S”で始まる言葉をたくさん言って下さいという方法もある」

 

  • しなやかさの障害

過去において確立された習慣を新しい要求に応じてセット(構え)を変化させることの障害。例えば、古い識別作用を新しい識別作用にシフトさせることができない、現在のやり方に中途半端にしがみつく、反応の多様性の欠如など。

 

  • ウィスコンシンカード分類テスト

元来この検査は、施行の柔軟性を調べるという心理学的研究の為に開発された。最も関連するのは、Broadmann area 9である。検査者は被験者に知らせることなくマッチの基準を変える。すなわち、患者の行う検査の並べ替えの基準が何の前触れもなく検査中に変わってしまう。結果のフィードバックがあるだけで基準は明かされず、しかもその基準が変動するという点に特徴がある。

 

 

以上、武田克彦先生に「前頭葉」についてご講演いただいた内容を報告します。次回は、令和元年12月19日に「遂行機能障害」について、武田克彦先生にご講演をしていただく予定となっています。

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