第52回 ②遂行機能障害~前頭葉~ | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第52回 ②遂行機能障害~前頭葉~

 

 

令和元年12月19日、桔梗ヶ原病院リハビリテーション研修会Luncheon Seminarを開催しました。講師は当院リハビリテーション科の武田克彦先生。テーマは前回に引き続き「遂行機能障害~前頭葉~」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告します。

 

  • FAB

遂行機能は行動の選択、計画、実行、モニター、修正など多くのステップがあり、複雑な課題が必要とされる。ベッドサイドでの簡便な評価方法としてFrontal Assessment Battery(FAB)がある。FABは6つの検査項目からなり(.類似性、語彙の柔軟性、運動プログラミング、干渉指示の実行、行動の抑制、強制把握)がある。

 

  • ワーキングメモリーと前頭葉性記憶障害との関連

前頭葉が障害されると記憶の障害が起きる。ワーキングメモリーそのものの障害というより記憶の過程を遂行する時に必要なプランをたてる、抑制をちゃんとする等ができない。Word listが覚えられなくても、カゴテリーごとに分ける。論理的に覚えられるようにするなどによってずいぶん成績が改善する。

 

  • 高次脳機能障害に対するエビデンスの高い訓練方法
注意障害 注意機能を刺激する直接訓練を行う(グレードB)
ADLや仕事に対し、時間を十分に確保する(タイムプレッシャーマネージメント グレードA)
例)日常動作や料理、掃除等の応用動作を再学習する。

趣味や仕事等、熱中できるものに取り組む。

遂行機能障害 Metacognitive strategy trainingは勧められる(グレードA)
  例)自分が出来る事、できないこと、助けてもらうことをきちんと言える習慣を身に付ける。

目標とする行動が正しく、効率よく行われたか反省する習慣を付ける。

すべき事柄を紙に列記する習慣を身に付ける。

記憶障害 メモ等の外的補助手段が利用できるよう訓練する(グレードA)
新しい学習を行う場合、失敗経験をなるべくしないように工夫して学習する(グレードB)

 

  • 遂行機能障害のリハビリテーション(Metacognitive strategy training)

自己の能力を自覚したうえで動作を選択していく訓練を言う。たとえば日常生活動作を施行中に各動作の目的と予想される結果とその難しさ、そしてどの動作を選択するべきかを尋ねられる。

 

  • 症例EVR

EVRは両側の前頭葉眼窩部の髄膜腫を除去した。CTでは、両側性に前頭前野皮質損傷、特に腹内側領域が損傷を受けていた。左より右の方が損傷が強かった。背外側部や帯状回、運動野や補足運動野は無傷である。

EVRはクライアントに関する書類を読み、それを理解することはできるが、それらの書類を分類しなくてはいけないのに、特定の書類を読み出してそれをすることで1日つぶしてしまう。日常生活では、どのレストランで食事をするかの単純な決定すら難しかった。

 

EVRは小さな家屋設計事務所の会計係へ復帰したが、評判の芳しくない人物と組むようになり、周囲の助言にもかかわらずその男と仕事を進めた。案の定、全ての固定資産を失うこととなった。次に彼は幾つかの違う仕事についてみた。しかしどの仕事もお払い箱になった。

知能検査(WAIS)、記憶検査、作動記憶は正常以上の成績であり、失語症検査には問題なし。

また、ウィスコンシンカード分類検査、ミネソタ式多重人格検査は全般的においても正常の範囲内であったが、無感情であり、己の身に降りかかった悲劇を、事の重大さにそぐわない超然とした態度で語っていた。常に無感情な傍観者をして状況を描写していた。努力して感情を抑制しているのではない。かつて強い感情を引き起こしたことがいかなる反応をも引き起こさない。

 

  • 情動と感情

・情動:恐ろしい光景を見て体が硬直する、心臓がどきどきするといった特有の身体的変化をさす。身体的変化として表出した生命調節のこと。

・感情:脳には刻一刻と詳細に報告されている脳のしかるべきところに対応する身体マップが形成される。

身体マップをもとにある限度を超えて身体的変化が生じたことを感じること。

 

  • JAMES-Langeの説

・「人は悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだ」

・まず身体反応が起きて、その身体反応が脳に伝えられて情動がおきる。

・例)熊を見て身の危険を感じて逃げ出す。

熊を知覚すると、身体変化を生じさせ(末梢の変化)、この変化を意識したときに恐れや情動が生じる。

 

  • ソマティックマーカー説

次はどうすべきかという、考えられるオブジェクションが多い状況で妥当なものをひとつ選ぶ。この意思決定は普通合理的、理性的になされると考えられている。

しかし、ダマジオはそうではないという。それはあまりに時間がかかる。

 

  • ダマジオの意見

日常生活においてわれわれが合理的な推論と意思決定を行うことができるのは、われわれに感情があるからこそである。

損傷部に前頭葉腹側部が含まれるのであれば、両半球の前頭前野の損傷は推論意思決定と感情の障害と関連する。

 

  • ソマティックマーカー仮説

実生活において、妥当な選択がなぜ短時間でなされるか、特定のオプションが頭に浮かぶと、かすかに身体が反応してその結果、例えば「不快」な感情が生じる。

そうしてそのオプションの選択はなされない。こうしてあっという間に、2-3のオプションだけが絞り込まれ、そのオプションについて合理的な思考が働く。

なぜこのように進むのか?過去においてあるオプションを選択して結果的にうまくいかなかったとすると、そのときは不快な身体状態が引き起こされており、この経験的な結びつきが前頭前皮質に記憶されている。そのためまた同じオプションが浮かぶと不快な身体状態が再現される。

 

 

 

  • 一次の情動

嫌悪・おそれ・喜び・悲しみ・驚き・怒りなど

諸説あるが万国共通で表情等から喜怒哀楽が分かる。

 

  • 社会的情動

共感・当惑・恥・罪悪感・プライド・嫉妬・羨望・軽蔑

一次の情動の要素がこのタイプの要素に組み込まれている。

動物にもあるが、これらの情動が生得的かどうかは情動の種類によって異なる。

 

  • 情動
  • 喜び、共感などの情動は、ある特有の身体的パターンを形成する神経学的な反応の複雑な集まりである。
  • 情動を誘発する刺激が感知すると、それは脳の感覚システムによって表象される。

ついでに情動を誘発する部位が活性化される。これは鍵と錠前、抗体反応のようである。

情動を誘発しうる刺激の評価する所:感覚連合皮質

情動を誘発する部位:扁桃体 前頭葉腹側内側 補足運動野 帯状回

情動を実行する部位:視床下部 前脳基底部 脳幹

 

  • 扁桃体に損傷を有する例

学習能力に問題なし。あらゆる人に目立って肯定的な態度で接する。

まるでおそれや怒りといった否定的な情動が、患者の語彙から取り除かれているようであった。

特におそれを経験しないということが分かった。

 

  • 感情

脳には、いま身体がどういう状態にあるかが刻一刻詳細に報告され、脳のある部分に対応する身体マップをもとに、ある限度を超えて身体的変化が生じたことを感じるとき、われわれは感情を経験する。感情は心という劇場で演じられる。

 

  • 感情にかかわる脳の領域

1.体性感覚システム(S1、S2島)

前頭前野腹内側皮質

扁桃体、体性感覚皮質

推論・意思決定と感情の障害の神経 解剖・機能的初見がある。

 

  • ギャンブル実験

4つのラベルがついたカードの組の前に座る。2000ドルのお金を受け取り、持ち出しを少なくして出来るだけ多くの金をつくるように言われる。プレーヤーはカードをめくるとなにがしかの金が入る。時折、カードをめくると、なにがしかのお金を実験者に払わなくてはならなくなる。

 

 

以上、武田克彦先生に「前頭葉」についてご講演いただいた内容を報告します。次回は、令和2年1月16日に「社会的認知障害」について、武田克彦先生にご講演をしていただく予定となっています。

 

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