第41回 高次脳機能障害におけるイメージ | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第41回 高次脳機能障害におけるイメージ

平成31年1月17日、桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。講師は、当院リハビリテーション科の武田克彦先生(第40回 日本高次脳機能障害学会学術総会会長)。今回は、「高次脳機能障害におけるイメージ」について講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告いたします。

 

~視覚失認とイメージ~

イメージについてダーウィンは、進化で枝分かれしていくと表現し、非常に大事な物であるとしていた。

 

~イメージ研究と心的回転~

反応時間は、内的処理過程を反映する。10個の立方体から構成された立体図形の平面図を2つ左右に呈示して、被験者にその2つの図形が同一のものかどうかを判断させ、その判断に要する時間を測定した。2つの図形が重なる場合には、一方の図形は他の図形の鏡映像であった。

2つの図形の向きの違いが大きくなればなるほど、異同の判断にかかる時間が長くなり、それには一次関数的関係があった。この結果は、心の中でイメージを回転させているのであるとの解釈と、イメージという内的過程が実験的に扱いうることを示している。

花を思い浮かべるとき脳内では、「花は花びらと茎と葉っぱからできている」という知識は持っていてもイメージができなければ、表象として花を描くことは難しくなる。

 

~イメージが与える影響について~

ダーウィンが進化論のアイディアを煮詰めるにあたって、描いた「樹木のイメージ」がその後の長い思考展開のたたき台になったと肯定的にみる見方がある。一方で、イメージは感覚の単なる亡霊以上のものではなく、機能的意味はまったくないという意見もある。

 

~イメージ論争~

イメージに対して、絵のようなもの(表象)を仮定する人たち(Kosslynら)に対して、絵のようなものはなく、命題と呼ばれる抽象的な表象形式を仮定する人たちとの間におきた論争のこと(Pylyshynら)をいう。

Kosslynの考えは、イメージとは時間的空間的な推移事象であって、表象空間に形成されて処理される知覚と処理機構を一部共有するプロセスである。情報の保存の構造は長期視覚記憶と短期視覚バッファーに分けられる。

~命題派にとってイメージ派のここが弱点である~

ホムンクルスを考えざるを得ない。

絵のようなものをいちいち考えると脳の中に膨大な容量が必要となり非効率的。

内省はまったくあてにならない。

イメージの定義は何か?

内的表象が1つの方が考え方として優美である。

脳の中には小人がいて、その小人が考えているということ。

 

~命題派の考え~

命題的記述とは、抽象的な言語に似たものである。しかし、それは言語そのものではなく、言語で言えばその意味に対応するものである。また、言語では表現できない知識をも表現する。

イメージが機能するのは命題記述の形で入っている情報である。絵のようなものは何の機能ももたない。

イメージ自体は、抽象的な命題形式のコードであってイメージ体験というのは、このような行動、印象がともなうはずだという了解的知識による一種のシミュレーションである。例えば三角形を思い描いたとする。それを用いて何かを推論する事を考えよう。そのときに用いられるのは、三角形が3つの辺を持つというような、主体が三角形について理解(解釈した)という情報である。

 

~暗黙知~

イメージ実験自体が本来的に(暗黙のうちに)教示や近く実験から予想されるような要求特性を持っている。たとえは、シェパードやコスリンの実験では「心の眼で走査する」「心の中で図形を回転させる」と教示されている。こうした要求特性が結果に影響を与える。

 

~Kosslynらの反論~

視野の中の位置と視覚野での位置との対応関係をみると、視野の中での位置は、視覚野での位置とトポロジカルに対応している。デオキシグルコース法で行ったものでは、テストパターンをみせた時に活動している視覚野の箇所をみると、テストパターンに対応する線がはっきりと現れることがわかった。

イメージにおいても、それが視知覚と同じ機構を共有しているため、やはり同じようにtopographically organizedされている。

 

~視覚と視覚イメージについての支配的考え~

視知覚の過程とイメージの過程は、同じ脳内機構を用いている。

  1. イメージが視知覚と相互作用をする
  2. 視知覚と視覚イメージで重複する脳の活性化を明らかにする
  3. 脳損傷患者ではイメージと視知覚の両方が平行して障害される

 

~患者DF~

症例DFは見本を見てもそれが何であるか言えない。模写ではそれが何であるか言えるほどではない。しかし記憶に頼って描いたものは、明らかに模写よりもよく描けた。

 

~統合型失認の患者CK~

線画の同定に著しい困難があるにも関わらず、物品についての知識も保たれているだけでなく、イメージに頼って絵を描くことができた。

 

~Kosslynらの反論~

イメージと知覚が同一の神経基盤を有するのではない。2つの領域はほとんど同じ脳の領域を利用している。知覚だけ利用している脳の部位が損傷されれば、イメージを保持した視覚失認などが生じうる。

 

○参考図書

「心的イメージとは何か」

S・M・コスリン、W・Lトンプソン、G・ガニス 著

武田克彦 監訳(2009.12.1)北大路書房.

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以上、武田克彦先生に「イメージ論争」をテーマにご講演頂きました。次回は、平成31年2月14日に講演して頂く予定となっております。

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