第12回「失語~2~」 | 医療法人社団 敬仁会 | 桔梗ヶ原病院

第12回「失語~2~」

平成28年8月18日桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。講師は、当院リハビリテーション科の武田克彦先生(第40回 日本高次脳機能障 害学会学術総会会長)。
テーマは前回に引き続き「失語症」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告致します。

-分類の意義と評価-

前回、失語症とはどのような状態を指すのか、診断基準、またその分類について講演して頂きました。今回は、まず、失語症を分類する際の評価項目、意義から触れていきます。
タイプ分類は、前講演の流暢/非流暢での分類の他、患者の自発話、復唱能力、聴覚的 理解力で評価することができます。失語症の分類を行うことで、失語症患者の病変部位を ある程度推定することができ、同時に脳における言語のメカニズムをも知ることができます。

-脳と心の関係における歴史的背景-

太古の昔、エジプトでは心臓こそが精神の宿る場所だと信じられてきました。しかし、Hippocratesは、感情は脳から発する、脳によって我々は思考するという思想を持っていました。 言語と脳の関係について、Gallは特定の皮質が言語を司る働きがあるという「大脳局在論」という考えを初めて提唱しました。その他Bouillaudも前頭葉が障害されると話せないなど、特定の領域に応じた能力が障害されると提唱しました。しかし、Flourensによる脳の各部は同じ機能を持ち補い合っているという説が有力とされ、長い間論争が行われて きました。

-ブローカの貢献-

その後 Brocaは、ある日「タン」としか話せない患者(以下Tan氏)を診察しました。
身振りなどの非言語コミュニケーションは可能で、その場に合う行動を取り比較的知能も保たれていました。その様子から言語能力が失われたのではないかと考え、Tan氏の死後、神経学的解剖を行ったところ前頭葉に損傷があったことを発見しました。このことから左脳の前頭葉に発話の中枢があるのではないかと考えました(右利きの場合、左脳99%、左利きの場合、左脳60%が言語中枢と考えられている)。

-ウェルニッケの貢献-

一方、Wernickeは、身体に麻痺はないもののコミュニケーションは無意味な言葉を話し錯乱状態で入院してきた患者を診察しました。話し言葉は混乱し同じことを繰り返し正しい答えは得られませんでした。しかし時に理解できる文があり、その内容は意味が通っていた点などから失語症ではないかと考えました。大脳のローランド溝より前の領域は運動、後ろは感覚を司ることから、ブローカ野は口腔運動や構音表象の領域に近いため障害されると運動性失語をきたし、聴覚投射領域が障害されると感覚性失語をきたすと演繹的に考えました。そして、ウェルニッケ野とブローカ野をつなぐ回路(弓状束)を障害されると 復唱が特異的に困難な伝導失語、語の概念が障害されると超皮質性失語と分類しました。
また、検証可能な枠組みである言語処理の神経学的モデル(Werniche-Lichtheim図式)を作り、のちの失語症研究に大きく貢献しました。

Luncheon seminarの様子

以上、武田克彦先生に「失語症」をテーマにご講演をいただいた内容をご報告します。
次回は平成28年9月8日に、引き続き「失語症(読み書き)」をテーマにご講演をしていただく予定です。

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